五百羅漢寺とは?
神社仏閣巡りを楽しんでいる方の中には「五百羅漢」という言葉を知っている方もいるでしょう。仏陀に付き添った500人の弟子を五百羅漢と言い、信仰の対象とするものですが、この五百羅漢がいる代表的な寺院の一つが「五百羅漢寺」です。見どころや御朱印、おすすめポイントなどについて紹介します。
目黒区下目黒にある仏教寺院
五百羅漢寺は東京都目黒区下目黒にある浄土宗の寺院です。最初は黄檗宗でしたが、後に浄土宗になりました。このお寺はその名前の通り、五百羅漢がある寺として知られており、しかもそのほとんどが一人の僧侶によって造られていることでも有名です。
五百羅漢はもちろん、見どころもいろいろとあり、加えてアクセスも比較的よいことから、参拝や御朱印巡りを楽しむ方が多く訪れています。
五百羅漢寺の縁起と所蔵している文化財
それではまずは、五百羅漢寺とはどういうお寺なのかについてもう少し見て行きましょう。五百羅漢寺はどういう縁起を持つお寺なのでしょうか。また、お寺や神社というと古い歴史を持つことが多く、いわゆる文化財などを所蔵しているところが多いですが、五百羅漢寺はどうでしょうか。
五百羅漢寺の縁起
さて、五百羅漢寺ですが、その始まりは江戸時代の1695年に遡ります。創建したのは松雲元慶という僧侶でした。この方は京都出身で鉄眼道光という黄檗宗の僧侶に師事したのですが、豊前国(現大分県中津市)にある五百羅漢像を見て自分でもそれを作ろうと考えます。
松雲は1687年、江戸にやってきて托鉢を行い資金を集め、五百羅漢像を作り始めます。そして江戸の本所五ツ目にそれを祀り、1695年、五百羅漢寺を作ったのです。
1713年、三代目住職となった象先元歴は本殿や東西羅漢堂など大伽藍の整備を行います。特にこの時に造られた三匝堂(さんそうどう)は、西国三十三所、坂東三十三箇所、秩父三十四箇所の合計百ヶ所の観音を祀っており、「百観音」と呼ばれ多くの参拝者が訪れました。
この時の様子は葛飾北斎の「富嶽三十六景」の「五百らかん寺さざゑ堂」や「江戸名所図会」にも描かれたほか、徳川幕府五代将軍綱吉、八代将軍吉宗などの援助を受けました。この建物は内部がらせん階段状になっていて、五百羅漢などを一度に見ることができると人気だったそうです。
一方でもともとあった本所は埋め立て地であったこともあり、たびたび水害に見舞われます。さらに1855年に起こった安政の大地震ではその東西羅漢堂が倒壊するなどの大きな被害を受け、だんだんと寺勢は衰退していきます。
明治に入り、1887年には本所緑町へ、そして1908年には現在の地へと寺は移転します。そしていったんは衰退し、無住の状態になりました。しかし1938年、ここに安藤妙照尼が入り、第二次世界大戦前後を乗り切ります。
そして1981年、貫主により新たな整備が行われ、現在の近代的なビルに生まれ変わりました。現在では五百羅漢をじっくりと拝観できるお寺として知られ、多くの参拝者が訪れています。
五百羅漢寺が所蔵している文化財
このように古い歴史を持つ目黒の五百羅漢寺ですから、文化財も多くあります。特筆すべきものとして挙げられるのは、やはり縁起のところでも紹介した五百羅漢でしょう。
五百羅漢という名前から、羅漢像が500あると考えている方も多いでしょうが、実際に松雲が作った羅漢像は536体におよびます。しかも松雲はこの羅漢像の他にも木造釈迦三尊像など複数の仏像を作っており、これらをまとめて「木造釈迦三尊及び五百羅漢等像 305躯」が東京都の指定有形文化財になっています。
しかし、この文化財指定の数を見ると、536体ではありません。その理由は寺がいったん衰退したことにあります。五百羅漢寺は縁起で述べたように、明治以降に寺勢が衰退していますが、この際に多くの仏像が失われたのです。
その後、1952年に寺外へ流出していたものが発見されたりしたこともあって、現在では五百羅漢像287体を含む305体が文化財指定とされています。このほかに東京の世田谷区にある寺に、ここから流出した羅漢像が9体あることがわかっています。
後で詳しく述べますが、一人の僧侶がすべてを作ったという点はもちろんですが、一般的には仏像彫刻があまり盛んではなかった江戸時代の貴重な仏像群として高い評価を受けています。
五百羅漢寺の見どころ
目黒の五百羅漢寺は、江戸時代から「目黒のらかんさん」と呼ばれる観光スポットだったほどですし、今でも文化財があるほどですから、見どころも多いです。そこで次に、目黒の五百羅漢寺に行ったらぜひ見ておきたい、おすすめの見どころについていくつか紹介していきましょう。
不退法尊者(ふたいほうそんじゃ)像
目黒の五百羅漢寺に着くとすぐに目の前にあらわれるのがこちらの「不退法尊者像」です。ちょうど入口の横にいるので、これも五百羅漢の一つとは考えないかもしれません。
不退法尊者というのはどんな苦難にあっても退かずにじっとそれを耐え忍ぶものとされています。とは言っても、いかにも苦難に立ち向かっているというような険しい表情ではないのが印象的ではないでしょうか。入り口の横ということで、近くで見られるのでじっくり見ることをおすすめします。
庚申塔
次は「庚申塔」です。手水の右隣にあるのですが、初めて見た方だと「塔」には見えないかもしれません。青面金剛と三匹の猿が彫刻されています。
「庚申」というのは十二支十干の「庚申」の日のことを言います。この日に眠ると、人間の体内にいる虫(三尸)が抜けだして天帝にその人の悪行を伝えるため寿命が縮むと言われました。特に江戸時代には「庚申待」と呼ばれる信仰が行われていたのです。
この庚申信仰に深いかかわりがあるのが、この庚申塔に彫られた青面金剛と猿です。青面金剛は庚申信仰の本尊とされ、先ほど述べた三尸を押さえる神とされました。また猿は「庚申」の「申」に通じることから庚申の神の使いとされたのです。
これらのことから、目黒の五百羅漢寺だけではなく、全国各地にある庚申塔には青面金剛と三猿があらわされていることが多く、三猿はいわゆる「見ざる言わざる聞かざる」で表現されていることが多いようです。これは三尸を封じるために「悪事を見ざる言わざる聞かざる」の意味とされています。
このように、この庚申塔は江戸時代の人々の信仰を現代に伝えるものとして興味深いものです。ぜひ一つ一つの像も含めて拝観してみてはいかがでしょうか。
羅漢堂と羅漢像
いよいよ目黒の五百羅漢寺の一番のおすすめポイントである「羅漢堂」です。文字通り、五百羅漢を祀るための場所なので、順路に従って入るとそこにはたくさんの羅漢がずらりと並び、参拝者を迎えてくれます。
この五百羅漢については先ほども紹介したように、五百羅漢寺を創建した僧侶が一人で作り上げたものです。像高は80センチから90センチほどの寄木造なのですが、驚くべきことに表情やポーズなどがそれぞれ違うという特徴があるのです。
ですから、じっくりと顔を眺めていると心に響くものが出てくると言われており、じっくりと仏像と会話を楽しむ方にも人気が高い場所です。時間に余裕があればぜひゆっくりと眺めてみることをおすすめします。また中は撮影禁止なので気をつけてください。
本堂
羅漢堂でゆっくりと五百羅漢との時間を過ごしたら、次は本堂に行ってみましょう。先ほども紹介したように、目黒の五百羅漢寺は近年に整備が行われ、その際にこちらも再建されました。そのためいわゆるお寺のイメージとは少し違う、近代的な造りになっています。
本堂の中にもたくさんの羅漢像が並び、中央に木造釈迦三尊像が鎮座しています。御朱印や御朱印帳などいただく方はもちろん、せっかく参拝したのですから本尊への参拝は忘れずにすることをおすすめします。
また、この本堂の脇には「羅漢おみくじ」があり、「幸せつかめ」と書いています。参拝が済んだらこちらで幸せをつかむのもおすすめします。
お鯉観音
次に紹介するおすすめの見どころは「お鯉観音」です。鯉といっても、なにか漁業にご利益があるというわけではありません。この「お鯉」というのは実は人名なのです。
先ほど縁起のところで、荒廃した五百羅漢寺に安藤妙照尼という方が入り、寺を守ったと述べました。この妙照尼というのは実はその昔新橋の芸者で、時の総理大臣の愛妾としても知られた方でした。この方が後に出家し、妙照尼となったのです。
この方の芸者時代の名前が「お鯉」だったそうで、この観音様は縁結びや芸能大成などのご利益があると人気なのだそうです。良縁を願う方はぜひこちらへのお参りもおすすめします。
再起地蔵尊像
もう一つ、本堂の脇で目を引く仏像があります。それが「再起地蔵尊像」です。「再起」という言葉でわかるように、こちらの仏像は再起を願う方、失意の方の行く先を照らしてくれるお地蔵さまとされており、いろいろな面で「再起」を願う方に人気となっています。
「失意」というほどでなくても、だれでも失敗したり、挫折したりという経験はあるのではないでしょうか。そんな方はぜひ、再起地蔵尊にお参りをして新たな一歩を踏み出すのがおすすめです。
原爆殉難碑
原爆というと、広島や長崎などで慰霊碑に実際にお参りしたことがある方もいるのではないでしょうか。直接原爆の被害を受けていないはずの目黒の五百羅漢寺に、なぜ原爆殉難碑があるのでしょうか。
この原爆殉難碑は、「移動劇団さくら隊」で被爆し亡くなった方を祀っています。このさくら隊は爆心地から750メートルほどしか離れていない所で被爆し、団員9名が悲惨な最期を遂げました。
1947年、徳川夢声というタレントの方が、旧友の死を哀悼し、原爆という非人道的な兵器を開発した人間の愚かさを永遠に伝えるために、この碑が作られました。平和の尊さを改めて考えさせてくれる場所としておすすめします。
天恩供養塔
次の「天恩供養塔」はこちらの五百羅漢寺の檀家の方々の御分骨を集めて葬っているところだそうです。こちらで永遠に供養されるということになっているようです。分骨まで大切に扱っていただけるということがよくわかります。こちらも近くを通るときは静かに通るとよいでしょう。
御腰掛け石
最後に紹介するのが「御腰掛け石」です。「御」腰掛けというくらいですから、なにか偉い方にいわくがあるものではと推測できますが、こちらはあの有名な江戸幕府八代将軍徳川吉宗ゆかりのものなのです。
吉宗は自らが将軍だったとき、五百羅漢寺に寺地を寄附したり、桃や桜、藤などを植え、整備を行いました。さらに五百羅漢寺を訪れては境内にお茶屋を作り、遊猟の際には食事場所にもしたそうです。
これに関係して1735年にこの御腰掛け石が本堂の右前に置かれ、吉宗はここで法話を聞いたり、聴聞を行ったりしたようです。有名な吉宗ゆかりの観光スポットの一つと言えるかもしれません。
五百羅漢寺の御朱印・御朱印帳情報
さて、このようにおすすめの観光スポットも多い五百羅漢寺ですが、近年寺社巡りといえば真っ先に思い浮かぶのが御朱印巡りです。いろいろな神社仏閣を巡り、オリジナル御朱印帳を手に入れ、オリジナル御朱印をいただくのを楽しんでいる方も多いでしょう。目黒の五百羅漢寺の御朱印、御朱印帳情報を紹介します。
御朱印情報
まずは目黒の五百羅漢寺の御朱印からです。五百羅漢寺は御朱印の授与を行っているので、参拝の後に御朱印をいただくことが可能です。場所は後で述べますが、拝観料を支払うところで一緒に御朱印や御朱印帳も授与していただくことができます。
いただける御朱印は2種類です。1つは通常のもので、右上に寺紋、中央に蓮と寺名の御朱印、左下に寺名の御朱印が入ります。そして中央には梵字と「五百羅漢尊」その両脇に「松雲禅師御作」「目黒」と「天恩山五百羅漢寺」の文字が揮毫されます。
この通常タイプの御朱印は通常ということでいつ行ってもいただくことができる御朱印なのですが、2020年現在、もう一ついただける御朱印があります。それは「令和2年限定版」というもので、中央の揮毫が「法輪山尊」となっているものです。
こちらの御朱印は令和2年、つまり2020年限定の御朱印で、授与されるのは2019年の大晦日から2020年の1月7日までの予定となっています。「平成31年限定版」というものもあったようなので、毎年その年限定のものがある可能性があります。
こちらの方も通常版と一緒にいただくことができるので、五百羅漢寺に参拝した時にはこちらの御朱印もいただくことをおすすめします。
御朱印帳情報
次に御朱印帳情報です。御朱印集めを始める方はもちろん、お気に入りの御朱印帳を使いたいという方も多いようで、観光などで訪れた神社仏閣でオリジナル御朱印帳を授与していただいた方も多いのではないでしょうか。
五百羅漢寺にもオリジナル御朱印帳があります。しかもこの御朱印帳はなんと有名な旅行本の表紙、御朱印帳を紹介するページに出てくるほどの人気の一品なのです。
御朱印帳は黒地に五百羅漢の仏像があしらわれており、寺名も入っているもので、男性でも持ちやすい重厚な印象の御朱印帳です。観光などで訪れた方も、参拝の記念に御朱印帳を授与していただいてはいかがでしょうか。
五百羅漢寺を拝観する場合の注意
ここまで五百羅漢寺の見どころや御朱印、御朱印帳の情報について述べてきましたが、五百羅漢寺にせっかく参拝するなら注意しておきたいことがいくつかあります。とはいっても、寺社参拝をする方にとっては当たり前のことが多いです。
まず御朱印についてですが、御朱印は参拝料を支払うところで授与してくれます。そのため参拝に行く前にここで御朱印帳を預ける形になります。一般的に御朱印は参拝を終えてからいただくので逆になりますが、ちゃんと参拝はしていきましょう。
また、五百羅漢など、境内は撮影不可の場所がいくつかあります。特に仏像の撮影は許可されていません。注意を守り、トラブルにならないように注意して拝観しましょう。
五百羅漢寺の基本情報
それでは五百羅漢寺の基本情報について紹介しましょう。基本情報として紹介するのはアクセス方法と拝観に関することです。五百羅漢寺は目黒にあり、アクセスは便利なところなので、公共交通機関をうまく利用してアクセスするのがおすすめです。また拝観時間はしっかり確認し、御朱印などいただく時間を間違えないようにしましょう。
五百羅漢寺へのアクセス方法
まずは五百羅漢寺へのアクセス方法です。五百羅漢寺は最初に述べたように東京都目黒区下目黒にあります。目黒ですから東京の中心部でもあり、公共交通機関を利用してのアクセスが便利なところと言えるでしょう。
五百羅漢寺にアクセスする際に利用しやすい最寄り駅は二つあります。近いのは東急目黒線の「不動前」駅で、駅からのアクセスは徒歩で8分ほどです。もう一つはJR「目黒」駅で、こちらのアクセスは徒歩で12分ほどとなっています。
五百羅漢寺の場所はこの二つの駅が交わるあたりになります。そのためアクセスにも二つの駅が使えるわけで、どちらも極端に遠いわけではありません。どちらでもアクセスしやすい方を利用するとよいでしょう。
また、電車の他にバスでのアクセスも可能です。バスの場合は東急バスの「渋41」の路線を利用することができます。最寄りは「不動尊参道」バス停で、ここから五百羅漢寺までは徒歩で2分ほどと近いです。バスは渋谷駅から出るので、アクセスには便利でしょう。
一方、車でのアクセスに関しては一応は無料駐車場がありますが、さほど広くないことも考えられます。観光などで車を利用する場合はこちらを利用することになりますが、外のコインパーキングなどは目黒ということで高いことも考えられます。できるだけ公共交通機関を利用することをおすすめします。
五百羅漢寺の拝観時間と拝観料
次に五百羅漢寺の拝観時間と拝観料です。五百羅漢寺の拝観時間は9時から17時までとなっており、拝観受付は16時30分までとなっています。特に御朱印などをいただく予定の方は余裕を持たせて行きましょう。
また拝観料は大人が500円、高校生以上が400円、20名以上の団体はそれぞれ100円引きとなっています。障がいのある方、65歳以上の方は400円、中学生以下の方は無料となります。
なお、先ほど少し触れましたが、この拝観料を支払う場所で御朱印帳や御朱印の授与も行っています。拝観料を支払う時に御朱印帳を預けますので、忘れないようにしましょう。
五百羅漢寺の周辺観光スポット
最後に、五百羅漢寺に近い、周辺観光スポットを紹介します。まず挙げたいのが「瀧泉寺」です。寺名ではわからない方も多いかもしれませんが、このお寺は「目黒不動」と呼ばれており、こちらも江戸時代からの観光スポットとして知られていました。「目黒」の地名はここから来ているとも言われます。
観光としても見どころが多く、五百羅漢寺からも近いため、組み合わせて観光するのにぴったりな場所ですし、有名な青木昆陽の墓などもあります。もちろん御朱印もいただけますので、ぜひ観光に組み合わせてください。
また、目黒雅叙園も比較的近く、有名なアニメの建物のモデルにもなっており、こちらも観光客に人気です。レストランなどもあるので、こちらで食事をとるのもよいでしょう。
目黒のおすすめ観光スポット五百羅漢寺へ行こう!
目黒の五百羅漢寺は、江戸時代から観光スポットとして知られており、その五百羅漢の迫力は一度見ておきたいものの一つと言えるでしょう。最寄り駅からのアクセスも比較的よいので、周辺観光に組み込むのもしやすいですし、ゆっくり五百羅漢を拝観するのもいいものです。ぜひ目黒の五百羅漢で落ち着いたひとときをどうぞ。
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