中国八代料理のひとつ湖南料理
中国料理の調理法には、数多くの流派があるのをご存知ですか。数多く存在する流派の中でも、特に影響力のある調理法が8つあります。山東料理、四川料理、広東料理、福建料理、江蘇料理、浙江料理、湖南料理、安徽料理です。これらは、“中国八大料理”と称され社会的に公認されている料理です。
今、中国では湖南料理への人気が高まっています。ところが、日本では、湖南料理は四川料理や広東料理に比べて馴染みがないのが現状です。そこで、中華料理の本場で人気上昇中の湖南料理の魅力についてご紹介します。
中国三大”辛い”料理のひとつ湖南料理の辛味
日本で中国料理で辛い料理といえば、四川料理がまっさきに思いつくことでしょう。麻婆豆腐、担々麺、火鍋など真っ赤なラー油に浸った四川料理。しかし、本場中国では、四川料理よりももっと辛い料理が存在します。それが、湖南料理です。中国では、湖南料理は「中国で一番辛い料理」と言われるほどの辛さを誇ります。
四川料理でもかなり辛い料理ですが、その辛さを上回る辛さとはどれほどの辛さなのでしょう。辛い物好きの方なら、きっと気になってしまう料理ではないでしょうか。
辛さ・発酵・燻製・ハーブがキーワードの湖南料理
湖南料理とは、中国内陸部に位置する湖南省で食べられる中華料理です。湖南料理では、山の珍味や野鳥や野獣の肉、河川の新鮮な魚介類をハーブで香りづけしたり、塩漬けにして発酵させたり、煙を使って燻製にしたりしたものを使うのが特徴。それらに唐辛子を加えて、たっぷりの油で炒め、醤油でしっかりと味をつけた料理が湖南料理です。
発酵した材料を使用することが多いため、その味は酸っぱ辛いのが特徴です。分かりやすくいえば、酸辣湯の味。四川料理発祥の料理と思われがちの酸辣湯ですが、実は酸辣湯は湖南料理なのです。
湖南料理はごはんを食べるのが目的
米であったことが影響していると考えられています。ところが、湖南地方の人たちの多くは辛いのが苦手。では、どうして「中国一辛い料理」といわるほど辛い料理を食べるのでしょうか。それは、湖南料理が“ごはんのおかず”だからです。辛さを味わいながらご飯を沢山たべるというのが目的だからだそうです。
辛さと醤油による濃い味付けは、湖南地方の人たちだけなく、お米を主食としている日本人でもご飯が進みそうです。ご飯好きの方にはおすすめの料理かもしれません。
湖南料理の歴史はとても長い
世界各国に美味しい料理はたくさんありますが、中国料理は特にバリエーションが豊富で美味しいと感じる料理が多いのが特徴です。多くの人が、中国料理に魅了されるのは美味・珍味にあるといっても過言ではありません。これほどまでに中国料理が、美味・珍味に発展した理由は、中国の人々の食にかけるこだわりの歴史があるからだといえます。
今から約2200年まえの中国の戦国時代末期、秦の宰相・呂不韋は、全国の食材を調査して『呂氏春秋』に記録。その後は、為政者たちは食事に非常に関心を寄せるようになります。広い国土、様々な民族の交流によって料理人が腕を競い合うようになったようです。
その結果、現在のような美味・珍味が魅力の多彩な中国料理へと発展したのです。湖南料理もこのように発展を遂げ、漢時代には早くも料理として形成されたようです。
酸っぱ辛いが特徴の湖南料理
中国の辛い料理として日本人に馴染みのある四川料理と湖南料理では、その“辛さ”に少し違いがあります。四川料理の“辛味”は、「麻辣」(マーラー)といわれる辛さ。山椒の実の一種である「花椒」(ホァージャオ)を使った痺れと辛味が特徴です。口の中がヒリヒリする辛さ。麻婆豆腐の味を思い出すとその辛さのイメージがつくのではなでしょうか。
一方、湖南料理の“辛味”は、「酸辣」(スワンラー)と「鮮辣」(シェンラー)と2つの言い表し方をします。「酸辣」は酸っぱ辛いのが特徴。酸辣湯の辛さです。もうひとつの「鮮辛辣」は、生の青唐辛子を使ったストレートで強烈な辛さが特徴です。
辛味といっても、四川と湖南ではこのような違いがあるのです。そのため、中国ではその辛さの違いを『四川人不怕辛辣、湖南人怕不辣』(四川人は辛いのを恐れず、湖南人は辛くないことを恐れる)と言い表します。湖南地方に暮らす人たちにとって、料理が辛いということはとても重要なことと認識されているようです。
3つの系統がある湖南料理
湖南料理は、主に省都である長沙市や中国の政治家・毛沢東の旧邸宅のある衡陽市の2つの地域で主に食べられています。食材は、湖南省最大の川である湘江流域、中国の淡水湖として2番目に大きい洞庭湖周辺、湖南省西部の山間地域から集められます。
色・香り・味・器・質を調和させ統一することにこだわっているものの、地理的条件の3つの地域それぞれに料理の技法や味に特徴の少し違いがあります。
長沙、衡陽を中心とした湘江地域は、香り・新鮮さ・酸味・辛さ・柔らかさを重視した料理。洞庭湖地域は、河川の新鮮な魚介やニワトリやアヒルなどの家禽を使って、煮込み・蒸し・燻しなどの技法を使って調理するのが特徴です。西部の山間地域は、山の珍味や野鳥・野獣の肉を塩漬けしたり燻製にしたりする料理。味は、塩辛くて香りが良いのが特徴です。
盛り付けも美しい湖南料理
辛いことで有名な湖南料理ですが、盛り付けも美しいことでも湖南料理は知られています。16種類もあると言われている包丁使いで、食材を表現力豊かな形状へと仕上げていきます。
さらに、器選びにこだわるのも湖南料理の特徴。赤や緑、黄などの色を野菜を組み合わせ彩よく盛り付けたり、立体的に盛り付けたりします。
料理は見た目も大切。長い歴史を受け継ぐ湖南料理だからこそ、料理の見た目が良いとより美味しく食事をいただけるというこを認識しているのかもしれません。
毛沢東にも愛された湖南料理
中国の政治家・毛沢東は、湖南省の出身。その毛沢東も湖南料理をよく食べていたといわれています。
毛沢東がこよなく愛したといわれている湖南料理のメニューは、「毛氏紅焼肉」(マオシーホンシャオロウ)。豚の三枚肉を甘い醤油で煮た湖南風の豚の角煮です。甘味の中にしょっぱさがあり、また、しょっぱさの中に辛さを感じる湖南料理を代表するメニューです。
長沙の名物料理“臭豆腐”も毛沢東が好んだ湖南料理のひとつ。省都・長沙を視察して帰省したさいには、欠かさず食べていたといわれるメニューです。
このように毛沢東は、湖南料理のメニューをとても愛していたことがわかります。そのため、中国では、毛沢東が大好きだった湖南料理のメニュー名の頭に“毛氏”とつくことが多いそう。中国の偉大な政治家が愛した湖南料理。なんだか食べたくなってきませんか。
湖南料理の代表的なメニュー
湖南料理にはたくさんのメニューがあります。例えば、漬けた唐辛子と魚の頭を蒸した料理は、湖南料理の代表格。まろやかさ酸味が蒸した魚の頭に染み込んでいて、ご飯が進むと評判のメニューです。
「紅畏魚翅」や「組庵魚翅」といったメニューも湖南料理として有名です。『魚翅』はフカヒレのこと。乾燥したフカヒレを独特な作り方で美味しくしあげているのが特徴の料理です。
湖南の伝統的な家庭宴会料理として、あり合わせの野菜や肉などなんでもかんでも入れて作るごった煮のような料理もあります。
湖南料理は、様々な材料を卓越した料理技術で作るのでメニューがとても豊富だといえます。食通にはたまらない料理だといえるかもしれません。
湖南料理の中心地は省都・長沙
中国で人気を集めている湖南料理。北京や上海など大きな街では、“湘菜”という看板を掲げているお店を見ることが多いです。“湘菜”とは湖南料理のこと。中国を訪れて湖南料理を食べてみたいと思ったら、“湘菜”という看板を目印に探すとよいでしょう。
でも、もし滞在に時間的余裕があるなら、湖南料理の本場・長沙市へ行くのをおすすめします。やはり、本物の味をぜひ味わってみてください。きっと、湖南料理の魅力にハマるはずです。
長沙人に人気の湖南料理メニュー
青唐辛子と細切れの豚肉を炒めた「辣椒炒肉」は日本の“チンジャオロース”に似たメニュー。長沙市に住む人たちは、この「辣椒炒肉」を好んで食べるそうです。“チンジャオロース”に似ているので、湖南料理に初めて挑戦する日本人にもおすすめのメニューです。ご飯がすすむこと間違いなし。
また、長沙市内を観光していると至るところで“米粉”という看板を目にします。実は、これ長沙人の米好きの表れ。長沙人は、無類の米好きだといわれています。ご飯が好きだから3食ご飯を食べたい。でも、朝からご飯を炊くのは大変。そのよう理由から、朝はお米が原料の米の麺“米粉”を食べるようになったんだとか。
まさに、長沙人のソウルフードといったところでしょうか。湖南の朝は、米粉を食べるのもおすすめ。もちろん、たっぷりの一味をいれていただくのが湖南流です。
湖南料理のお店を探すなら五一広場周辺がおすすめ
長沙市内で食事をするなら、長沙駅まえから東西に伸びる長沙市のメイン道路“五一大道”の西側にある五一広場付近がおすすめです。五一広場の周辺には、レストランや食堂が集まっているので湖南料理のお店を探すのとても便利でしょう。
毛沢東も通ったといわれる老舗「火宮殿」もあります。老舗店だけあって、料理の種類が豊富なのが特徴。さらに洗練されていて美味しいと評判です。歴史を感じながら湖南料理を堪能するなら老舗店で食べるのがおすすめです。
ただ、老舗店は、味が洗練されすぎていて料理に対する感動が薄いとい評価する人も少なくありません。もっと料理に感動が欲しいという人たちは、レストランを選ぶ人が多いようです。お手頃な値段で湖南料理を楽しめるので、湖南の人たちが好む味により近いと人気です。
もっと長沙の庶民の味を堪能したいなら、屋台がおおすめ。長沙市内には屋台も多くあり、臭豆腐や米粉など“小吃”と呼ばれるスナックを食べることができます。活気ある屋台で長沙のB級グルメを満喫することができると人気。
日本で湖南料理が食べられる人気のお店
「湖南料理を食べてみたいけど、なかなか中国まで行くのは難しい。」という方のために、ここでは、日本国内で湖南料理を食べられる人気のお店をご紹介します。日本では、湖南料理の知名度がまだ低いため、お店のほとんどが東京に集中しています。しかし、東京まで足を運べば、本場の味に近い湖南料理を食べることが可能なので参考してください。
中国人も認める高田馬場「李厨」
シェフは湖南省出身。お店に入った瞬間から“麻辣”の良い香りが漂ってくる湖南料理専門のお店です。「李厨」の名品『毛沢東田舎風豚の角煮』は美味しいと評判。その他にも、中国人の舌を唸らせる料理がたくさんあります。
注文の際、特に何も伝えなければ日本人向けの辛さで料理を提供しているそう。でも、「湖南風の辛さで!」とお願いすると本場の辛さで料理を食べることができます。お客さんはほぼ中国人ですが、本物の湖南料理を食べてみたいという方にはおすすめのお店です。
住所 | 東京都新宿区高田馬場3-4-16 MKビル2F |
電話番号 | 03-6886-9751 |
利用しやすい三軒茶屋「香辣里」
「香辣里」は、湖南料理の代表的な料理はもちろん、家庭で食べられている料理も食べることのできるお店です。香り高い燻製干し肉や中華風の燻製ソーセージといった湖南名物を、湖南省の農家で作られる製法で作っています。また、湖南省の庶民に愛されている『臭豆腐』といった食べ物もあります。
「香辣里」は、平日は深夜0時まで、週末は夜中の3時まで営業。仕事帰りに寄ってみたり、週末遊び過ぎて夕食の時間が大幅にズレてしまったりした時に使い勝手がとても良いお店です。
住所 | 東京都世田谷区太子堂4-23-11 GEMS三軒茶屋7F |
電話番号 | 03-6450-8791 |
サラリーマンに人気の神楽坂「紅龍」
JR「飯田橋」駅から歩いて数分の場所にある「紅龍」。唐辛子をふんだんに使った湖南料理は絶品と評判のお店です。特に、13種類のスパイスを作った自家製ラー油にピーナッツと白ごまをトッピングした『よだれ鶏』は人気のメニューです。その他にも魅力的な湖南料理をお手頃価格でいただけるのが「紅龍」の特徴といえるでしょう。
おすすめの時間はランチタイム。700円程のお値段で本格的な湖南料理を味わうことができます。ランチタイムのおすすめメニューは、『特製麻辣タンタン麺』。
突き刺さるような辛さで、胃袋が熱くなるような刺激的な辛さに今までにないタンタン麺の美味しさを感じることができます。
湖南料理を食べに湖南省に行ってみよう
湖南料理の魅力をお伝えしてきましたが、ご興味を持っていただけたでしょうか。定番の中国料理に飽きてきた、辛い物が大好きで今までにない辛い料理を食べてみたいという方には、中国八大料理のひとつにも称される湖南料理はおすすめの料理です。美味しい湖南料理をわざわざ食べに、中国・湖南省への旅を計画してみてはいかかでしょうか。