尻屋崎の馬を見に行こう
青森の観光というと、夏を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。逆に冬の青森は、どうしても雪や強風などのイメージが強く、おすすめ観光スポットなどあるのかと考える方もいるでしょう。しかし冬の下北にはここでしか見られない馬がいるのです。その馬が見られる尻屋崎へのアクセスやおすすめスポット、食事などの情報を紹介します。
尻屋崎とは
尻屋崎は寒立馬(かんだちめ)という馬がいることで知られている観光スポットです。雪が降りしきる中たたずむその馬は、ふだん見る機会があるサラブレッドとは雰囲気が違うことに気づく方もいるのではないでしょうか。
尻屋崎は、下北半島の代表的な観光スポットであり、特に夏には美しい景色と清々しい気候を求め多くの観光客が訪れるおすすめの場所でもあります。
尻屋崎はどこにある?
その尻屋崎があるのは青森県です。住所で言うと青森県下北郡東通村ということになります。下北半島の北東端、つまりまさかりの柄の先端にあたる部分にあるのが尻屋崎です。下北半島国定公園に指定されている場所にあります。
このあたりは車がないとアクセスはちょっと大変なのですが、景色がとてもよく、また新鮮な魚などを使った食事も楽しむことができるということで人気です。特に夏になると、美しい景色とともに比較的涼しいこともあって、多くの観光客が訪れるおすすめ観光スポットとなっているのです。
尻屋崎へのアクセス
それでは、尻屋崎へのアクセスについて紹介しましょう。まず最初に、尻屋崎、いや下北半島に行く場合は、なるべく車でのアクセスができるようにすべきだということが前提となります。なぜかというと最寄駅が尻屋崎から遠いためです。
まず、尻屋崎の最寄駅はどこかというところから説明します。尻屋崎の最寄駅と言えるのは「下北」駅です。この下北駅はJR大湊線の駅で、本州最北端の駅と言われています。この駅があるのは青森県むつ市で、尻屋崎まではここから30キロほどあります。
それ以外の場所にはJRや私鉄などはないため、観光地や食事の場所を探すのにはバスやタクシーを利用するしかありません。そしてバスは本数が少ないので、車でのアクセスが絶対的におすすめということになるのです。
車でアクセスする場合、最寄ICは八戸自動車道の「八戸」ICとなります。ここから国道338号、県道248号、6号を経由して約110キロあります。所要時間は約2時間30分です。むつ市からでも車で30分から45分くらいかかります。それでも車の方がアクセスは断然楽でしょう。
尻屋崎に公共交通機関でアクセスできる?
車でのアクセスが難しいということであれば、公共交通機関を利用してアクセスするということになります。次に公共交通機関でアクセスする方法を紹介します。
先ほど述べたように、尻屋崎の最寄駅となるのは大湊線の「下北」駅です。ふつうに考えるとこれがJRですから、新幹線からすんなり在来線に乗り換えてとなるわけですが、実は東北新幹線の盛岡から新青森までの間は平行して走る在来線が第三セクターに変わっています。
ですから、新幹線を利用してアクセスする場合、「八戸」駅で降りたら「青い森鉄道」に乗り換えます。これで「野辺地」駅まで行き、ここで大湊線に再度乗り換えて下北駅をめざすということになります。
では飛行機を利用する場合はどうなのかというと、最寄空港は「三沢空港」になります。空港からバスで青い森鉄道の「三沢」駅まで移動し、そこから青い森鉄道と大湊線を乗り継ぐことになります。
下北駅でゴールではありません。下北駅からはバスの乗り継ぎがさらに必要になります。まず下北駅から下北交通のバスに乗り、「むつバスターミナル」まで移動します。ここでさらにバスを乗り継ぎ、「尻屋崎」で下車するのです。むつバスターミナルまではさほど時間はかかりませんが、尻屋崎までのバスは1時間程度かかります。
この尻屋崎に行くバスなのですが、残念ながら季節限定で本数も少ないのです。そもそも運行されているのが5月から10月いっぱいまでであり、しかも本数が1日3往復(日、祝は2往復)しかありません。2018年10月現在の時刻表では、尻屋崎発は13時20分が最終です。ですから前もってしっかりと確認しないと帰ってこれないことになりかねません。
このように、尻屋崎まで公共交通機関を利用してアクセスしようとすると、細かく電車やバスを乗り継いでいくことが必要となります。そのため、東京を起点にすると飛行機でも新幹線でもさほどかかる時間は変わりません。
ちなみに、レンタカーは八戸駅でも、三沢空港でも借りることができます。この後の乗り換えを考えると、新幹線なら八戸、飛行機なら三沢空港でレンタカーを借りてしまうほうがよいでしょう。
尻屋崎の気候は?
先ほど、「清々しい気候」と述べました。一般的に青森県というと夏でも涼しい、冬は雪が多いというイメージがありますが、尻屋崎のある下北半島は青森県の中でも冷涼な地域に属します。なぜかというと、この地域は特に夏の「やませ」の影響を強く受けるためです。
「やませ」とは冷たく湿った北東風のことで、寒流である親潮の上を吹くため、気温が下がり、霧に覆われることから日照も少なくなります。やませが吹くときは、真夏でも最高気温が20度前後となります。さらに尻屋崎は岬ということもあって、風が強くなりがちです。
ですから、尻屋崎に観光に行く場合は、夏以外の季節はもちろんですが、夏でも上に羽織るものを持つことがおすすめです。逆に言うとそれだけ清々しい気候ということになるわけですから、真夏の避暑にはぴったりの地と言えるでしょう。
また、この涼しい気候がそばやブルーベリーと言った、冷涼な気候を好む作物にぴったりなので、時期が合えばブルーベリー摘みなどを楽しむことができたり、そばを食事でいただいたりということもできます。魚はもちろんですが、これらの作物をいただくのもおすすめです。
尻屋崎には馬がいる?
実は青森県は馬の産地として古くから知られていました。特に青森県の南部地方は馬と共に暮らしてきた地域であり、八戸、五戸などの「戸」は平泉の奥州藤原氏の時代に馬を年貢として納める場合の馬の管理、貢馬などのための行政単位だったという説があります。
尻屋崎のある東通村の海岸地域では、江戸時代の南部藩が置かれていた時代から「田名部馬」という馬が年間を通じて放牧されていました。この馬は南部馬の系統の馬ですが、比較的小柄で、寒さや粗食にも耐える馬で、明治に入るとその丈夫さから軍用馬として使われてきました。
この南部馬は軍用馬として育てられる過程で外来種の馬と交配され、改良されてきました。そのうち尻屋地区ではこの田名部馬を外来種のブルトン種と交配し、独自の肉用馬として改良したのです。これが尻屋崎にいる馬、「寒立馬」です。
寒立馬とは
では、「寒立馬」という名前はどうやってつけられたのでしょうか。実はもともと寒立馬は「野放馬」と呼ばれていました。1970年、地元の学校の校長が念頭の書初め大会で「東雲に勇みいななく寒立馬 筑紫が原の嵐ものかは」と詠んだのがきっかけで、寒立馬と呼ばれるようになったと言われます。
もともと「寒立」とはこの地方にいる「カモシカ」のことでした。カモシカが冬の寒さの中で何日も動かずにたたずんでいる姿を見てマタギたちは「寒立」と呼んだのです。冬に寒風の中尻屋崎にじっと立っている馬の姿がこれに似ていたのです。
1968年、尻屋崎が下北半島国定公園に指定されると、観光客が多く訪れるようになりました。観光に来た人たちは美しい景色と白い灯台、そしてのんびりと草を食む馬という牧歌的情景に魅せられ、寒立馬は全国的に知られるようになりました。
しかし、先ほど述べたように寒立馬はもともとが「肉用馬」つまり食用の馬でした。そのため1995年には9頭にまで激減してしまいます。そこで保護政策が行われるようになり、現在は30頭以上に回復しています。寒立馬とその生息地は現在、天然記念物に指定されています。
尻屋崎の馬はいつ見られる?
それでは、寒立馬はいつ見られるのでしょうか。寒立馬という名前のせいもあって、寒立馬は冬しか見られないというイメージがあるかもしれません。しかし実は尻屋崎で寒立馬を見ることができるのは冬「以外」の時期です。
そもそも尻屋崎はいつでも行ける場所ではありません。尻屋崎は12月1日から3月31日までの冬期間は閉鎖されており、4月中は8時から16時まで、5月から11月は7時から17時まで開放されています。寒立馬が遠くまで行ってしまわないようにするためです。先ほど、尻屋崎へのアクセスでバスが季節限定なのは、こういったこともあるからでしょう。
尻屋崎が閉鎖されていない時期の寒立馬は尻屋崎の周辺で自由に過ごしています。よく写真などで見る白い灯台のそばに寒立馬がいるという光景も、タイミングさえよければ可能です。ただ、灯台のそばだけが放牧場所ではないので、馬の気分によってはいないこともあるそうです。
尻屋崎が閉鎖されている間の寒立馬は?
ではその閉鎖されている間、寒立馬はどうするのかというと、「アタカ」という放牧地に移動しています。アタカは防風林で囲まれており、強い北風を和らげています。場所は先ほどアクセスのところで述べたバスの「尻屋」バス停から徒歩で20分ほどですから、車でのアクセスがおすすめです。
ちなみにこのアタカですが、だれでも自由に入って見学することができます。雪の寒さの中でのんびりと食事をしたりして過ごす寒立馬を見たいならこちらに行ってみましょう。外で寒いので、しっかりとした冬対策での見学がおすすめです。
尻屋崎の馬を見る時の注意
この寒立馬についてですが、いくつか気をつけなければならないことがあります。寒立馬は人になれていて、穏やかな性格の馬なので、ついつい近寄ってエサなどあげたくなってしまうかもしれません。しかし実は体重が600キロほどもあるとのことで、暴れたりすると危険です。
まずは馬をびっくりさせないように気をつけましょう。背後から近寄ったりすると危険だと言われています。またエサをあげたりすると、寒立馬は「観光客はエサをくれる人」と認識してしまい、おねだりするようになってしまうそうです。そうすると、あげなかった人に対して暴れたりすることもあり得ます。
また、寒立馬は自由に放牧されているので、道路でも平気で通過します。車で尻屋崎に行こうとすると目の前を横切ることもあるでしょう。車の運転には十分気をつけてください。また足元には落とし物があるので、ご注意ください。
尻屋埼灯台もおすすめスポット
さて、寒立馬とセットで写真などにおさまることが多い灯台もまた、尻屋崎の観光スポットの一つです。尻屋埼灯台というのですが、日本の灯台50選にも選ばれており、2017年には国の登録有形文化財に指定されました。
もともと尻屋崎周辺は津軽海峡と太平洋がぶつかるところで潮の流れが変わりやすく、また先ほど述べたやませの影響で霧が出やすい場所です。そのため古くから交通の難所として知られており、難破岬と呼ばれていました。明治になり、蝦夷地の開発を考えた時、この津軽海峡を安全に渡る方法を見つけ出すことは必要な条件だったのです。
明治になり、日本にお雇い外国人と言われる技術者がやってきました。その中の一人が「日本灯台の父」と呼ばれるブラントンです。ブラントンは1868年に日本にやってきて、26もの灯台を造ったのですが、その中の1つが尻屋埼灯台です。
尻屋埼灯台は東北地方初の洋式灯台として造られ、尻屋崎で焼いたレンガで二重の壁を造った複層構造の灯台です。国内最大級の光度である53万カンデラの光が照らしており、レンガ造りの灯台としては日本一の高さがあります。また霧が多い場所ということで日本で最初に霧信号所が設置されたところでもあります。
ちなみに尻屋埼灯台のところにある石碑には「本州最涯地尻屋崎」とありますが、実際に本州最北端なのはこの西にある大間崎となります。
尻屋崎で食事はできる?
この観光スポット尻屋崎周辺ではおすすめの食事ができる場所はあるのでしょうか。尻屋崎周辺には食事ができる場所が数か所あり、よっぽど混雑している時期でない限り、問題なく食事をすることができます。
このあたりでおすすめなのは、やはり海が近いということで海鮮を使った料理です。いわゆる海鮮丼のように生でたべるのももちろんですが、ラーメンなどでも海鮮がふんだんに使われており、食事に新鮮な魚を堪能したいという方にはぴったりです。
それから先ほど紹介した名産のそばを使ったそばもおすすめです。このあたりのそばは十割そばで、「煮おき」と呼ばれるゆでてあるそばに鶏ガラや昆布、煮干しなどでとっただしをかける「東通そば」がこの村独特のものとして挙げられます。
それから近年ご当地グルメとして人気があるのが「大湊海軍コロッケ」です。明治時代に現在の青森県むつ市大湊にあった旧海軍部隊で誕生したとされています。下北の海山の幸を使い、ヘット(牛脂)で揚げたコロッケは尻屋崎近くでも食事のメニューとして供されています。
尻屋崎の周辺観光スポット
尻屋崎周辺は尻屋崎そのものが代表的な観光スポットではあるのですが、猿ヶ森ヒバ埋没林も見逃せない場所です。このあたりは猿ヶ森大砂丘という砂丘なのですが、約2500年前から断続的に海から砂が打ち上げられ、ヒバがそこに埋まっていきました。
この砂に埋まり、立ち枯れたヒバが今、埋没林という形で目の前に広がっています。今見えているヒバはなんと今から約1000年前のものなのだそうです。まさに自然の神秘と言うところでしょうか。ぜひ尻屋崎の帰りにでも立ち寄ってみてください。
尻屋崎で癒しのひとときを
下北半島は気候が厳しく、アクセスも決していいとは言えませんが、自然の偉大さを感じることができる場所が多くあります。寒立馬もその一つと言えますし、たくさんのおいしい食事もまた自然の恵みをじかに感じることができるものと言えましょう。ぜひ尻屋崎の寒立馬をのんびりと見て、心の洗濯をしてみてはいかがでしょうか。