ウクライナで使えるのは何語?歴史と一緒に解説
ロシアが侵攻をはじめてから連日のように日本でも報道されて世界中から注目を集めることになったのが、ウクライナです。悲惨な状況もさることながら、国としてもじわじわと色々な影響が及んでいることを実感た人も少なくないことでしょう。
しかし、一体ウクライナとはどんな国なのか。今回は、そんな気になるウクライナについて、使われているのは何語で公用語は何語なのかなど、ウクライナの言語や歴史についてご紹介します。決して他人事ではないウクライナについて、詳しく解説です。
ウクライナで使えるのは何語?①公用語について
ウクライナは、東はロシア連邦、北にベラルーシ、西はポーランド、スロバキア、ハンガリー、ルーマニア、モルドバと国境を接しています。南は黒海に面していて、黒海を挟んだ向こう側はトルコです。
ウクライナの人口は2021年時点は約4159万人で、ヨーロッパでは7番目の人口の多さです。ドイツやフランスには及びませんが、スペインとはほぼ同じ人口規模で、公用語はウクライナ語です。
東西に約1400キロメートル、南北に約900キロメートルある国土は日本の1.6倍程。国土の半分が平野で、7割が農地で、世界的な穀倉地帯でもあります。さらに、石炭や石油などのエネルギー資源も豊富で、それに伴う重工業も発展しています。
一般的に公用語であるウクライナ語が話されているエリアはウクライナの西部とされています。しかし、北方ベラルーシ川のウクライナ語ではロシア語が混ざっていたり、ハンガリー国境の地ではウクライナ語とハンガリー語が混ざっていることも多くあるようです。
ウクライナ語の特徴
ウクライナの公用語であるウクライナ語はロシア語、ポーランド語、その次に3番目に話している人口が多いと言われている言語です。
国内と、国外ではロシアやカザフスタン、ベラルーシ、オーストラリア、ポーランドなどの外国に住むウクライナ人も使用しています。世界中でのウクライナ語を使っている人は約45000万人と言われています。
ウクライナの公用語であるウクライナ語の特徴として、ロシア語やポーランド語に似ていると言われることは多いですが、実際に最も近い言語はベラルーシ語で、両者の言語には約29の共通点があるとされています。
ウクライナ語とベラルーシ語との共通率は84%で、以下ポーランド語70%、スロバキア語68%、ロシア語62%となっています。
ウクライナの公用語であるウクライナ語の音の響きはどちらかというと硬く、音素と言われるウクライナ語を使う人が共通して認識する音の数は48あります。
音素は、英語が44、日本語が24とされていて、ウクライナ語の音素は日本語よりもかなり多く、スラブ諸国の言語の中でも最も多いとされています。
ウクライナ語の成り立ち
ウクライナの公用語であるウクライナ語はスラヴ祖語と呼ばれる祖先の言語から分岐し、その後独自の発展を遂げてきた言語です。
スラヴ語派は、東スラヴ語群と西スラヴ語群の2つに分類されます。東スラヴ語群にはウクライナ語の他にロシア語とベラルーシ語などが含まれ、一方の西スラヴ語群にはポーランド語やクロアチア語が属しています。
東スラヴ人の最古の国家とされているキエフが崩壊した後、ポーランド王国の影響下に入っていた西ウクライナではポーランド語の影響を強く受けたウクライナ語が発展しました。
一方で、リトアニア大公国の支配下に入った地域ではベラルーシ語の影響を受けたウクライナ語が発展しました。
さらに、ウクライナがロシア帝国の支配下にあった時代は、ウクライナ語は、ロシア語の小ロシア方言として扱われ、独立した言語としての存在さえ認められていない時期もありました。
その後、ソ連時代末期の言語法でウクライナの公用語がウクライナ語と認められるようになったのです。
キリル文字を使用したウクライナ語は、全部で33のキリル文字で表現され、アポストロフィーのような特別符号を含めると38の文字で成り立っています。
ちなみに、キリル文字はウクライナ語の他、ロシア語、ベラルーシ語、ブルガリア語、マケドニア語、セルビア語、モンゴル語などの表記に用いられている言語です。
キリル文字を使っている言語で最も有名な言語がロシア語であることから、日本ではキリル文字のことをロシア文字と呼ぶことも多々あります。
ウクライナで使えるのは何語?②2種類の言語が使える
ウクライナ語の特徴や成り立ちがわかったところで、実際にウクライナで使えるのは、公用語であるウクライナ語の他に何語があるのでしょうか。ウクライナ国内で使えるのは何語なのか、使える言語の種類のついて詳しくご紹介します。
ロシア語とウクライナ語が使える
現在、ウクライナ国内で話されている言語は、ロシア語と公用語のウクライナ語の2種類です。ロシア語と公用語であるウクライナ語の話者は、ウクライナ語が40%、ロシア語が35%で、両方を使用しているウクライナ国民も25%存在しています。
ウクライナのゼレンスキー大統領はかつてコメディアンとして活躍していましたが、コメディアン時代はロシア語を使っていました。
英語はほぼ使えない
ロシア語とウクライナ語を使う二言語国家と言われるウクライナでは、英語はほとんど使うことができません。
街中の看板や広告など、目につく文字はほとんどが公用語のウクライナ語で、英語はほとんど通じないと思っているのが無難です。
ただし、都市部のレストランやホテル、観光地など一部の場所では英語が通じるところもあります。ちなみに、英語でウクライナは「Ukraine」で、正しく発音するとユークレインとなります。
ウクライナで使えるのは何語?③ロシア語との差異
英語がほとんど通じないウクライナで使えるのは、ロシア語とウクライナ語です。ウクライナ語とロシア語は歴史的背景から見ても似ているところがあります。ウクライナで使えるロシア語とウクライナ語の共通点と違いについて説明しましょう。
ロシア語との共通点
分類学上同じ分類になり、同じ文字を使用しているウクライナ語とロシア語ですが、両者の共通点は文字と分類以外にもあるのでしょうか。ロシア語とウクライナ語の共通点についてご紹介します。
ロシア語とウクライナ語の共通点を挙げるとすれば、似たような単語があるという点です。例えば、日本語で「部屋」という意味の単語は、ウクライナ語で「キムナータ」、ロシア語で「コームナタ」と言います。2つを比べてみると音の響きが似ています。
ロシア語との違い
ウクライナ語とロシア語は分類上同じ言語になり、似たような単語があることをご紹介しましたが、逆に似ていない単語も多く存在しています。
例えば、日本語の「ベッド」という意味の単語は、ウクライナ語では「リーシコ」といい、ロシア語では「クラヴァーチ」と言います。ポーランド語では「ウーシコ」と言うため、この単語の場合はウクライナ語はよりポーランド語に近いということが言えるでしょう。
この例のように、ウクライナ語には、ロシア語よりもよりポーランド語に近い単語も多く存在しています。
ロシア語との違い①文字
さらに、ウクライナ語とロシア語には使われている文字にも違いがあります。ロシア語とウクライナ語はどちらもキリル文字を使用していますが、ウクライナ語で用いられる文字はロシア語よりも4つ少なくなっています。
日本人が多く知っているウクライナ語に「コサック」「ボウクライナ」といった名刺がありますが、それらを例にロシア語とウクライナ語の違いをみていきましょう。
「コサック」は、ウクライナ語で「コザーク」=kozak、ロシア語で「カザーク」=kazakです。発音のアクセントは後ろのaにあり、発音はウクライナ語の場合はどちらも[o]ですが、ロシア語の場合はアクセントのないaが[ə]で、アクセントのあるaが[o]になります。
日本語の「が」「を」「に」「へ」などを格助詞と言いますが、ウクライナの公用語であるウクライナ語とロシア語には格助詞が存在していません。
そのため、名詞が主語なのか、目的語なのかなど、状況に応じて名詞の語尾が変わります。これを語尾形と言いますが、語尾の格がロシア語は6個、ウクライナ語は7個存在しています。
ウクライナ語に存在しているのにロシア語に存在していない語尾は呼びかけなどに使う呼格です。ウクライナ語で「ウクライナよ!」と呼びかける場合は「ウクライーノ」となり、語尾が「a」から「o」に変化します。
ロシア語との違い②ことわざ
ウクライナ語とロシア語の違いとして諺を例に挙げてご紹介します。ロシアとウクライナには似たような諺が多くありますが、日本語で「管理者がいないと誰も仕事をしない」という意味の諺を例にとります。
ウクライナ語では「猫がいないとネズミたちがテーブルの上をかけまわる」というのに対し、ロシア語では「猫がいないとネズミたちは大騒ぎ」と表現します。
さらに、「役立つものを軽視してはいけない」という諺では、ウクライナ語の場合、「森へ行かなければ、暖炉の上で凍え死ぬ」であるのに対し、ロシア語では「森へ行ってこなければ、家で凍え死ぬことになる」となります。
2つの諺の例からわかるのは、ウクライナ語の方がロシア語よりもより描写が細かく具体的であるということです。
発音に関する考察からもわかるように、ウクライナ語とロシア語の言語の違いは、そのまま国民性にもつながり、より細かいウクライナと大雑把なロシアという違いが浮き彫りになります。
ある研究ではウクライナ語とロシア語の語彙面に関し、基礎語彙はほぼ一致しているが、抽象度の高い語彙になるとずれが大きくなるという研究結果も出ています。
ウクライナで使えるのは何語?④ポーランド語との差異
先にも述べましたが、ウクライナ語はロシア語よりもよりポーランド語に近いと言われている言語です。
分類的にはロシア語やベラルーシ語と同じ東スラブ語群でありながら、ウクライナ語がポーランド語に近いと言われる理由は、歴史的にポーランドの影響を強く受けてきたためです。ポーランド語とウクライナ語の共通点と違いについて詳しく説明していきましょう。
ポーランド語との共通点
ウクライナ語とポーランド語の共通点は、単語です。具体的に単語を例に挙げて説明しましょう。例えば、日本語の「ありがとう」の意味にあたるウクライナ語は「ヂャークユ」でポーランド語では「ヂェンクーイェン」です。
日本語の「ベッド」はウクライナ語で「リーシコ」、ポーランド語では「ウーシコ」です。さらに、ウクライナ語とポーランド語の名詞には男性、中世、女性の3つ、更に単数形と複数形に分けることができます。
「愛しい人」という場合、ウクライナ語は男性名詞が「コハニイ」、女性名詞が「コハナ」であるのに対し、ポーランド語は男性名詞が「コハニ」、女性名詞が「コハナ」とほとんど同じです。「はい」という返事も、ポーランド語では「tak」、ウクライナ語でも同じく「tak」です。
ちなみにベラルーシでも同じ表現をするため、この語彙はポーランドが発祥で、その後ウクライナとべラルーシに広まったものと考えられています。日本語の相槌のような「はい、はい」はポーランド語では「ターク、ターク」となるわけです。
文法面でもウクライナ語とポーランド語の共通点があります。例えば、「ある物を所有している」という文章を表現する場合、英語では「have」を用いますが、ポーランド語とウクライナ語では「have」以外に「be動詞」を使用する表現があります。
日本語に訳すと、「私は~を持っている」だけでなく、「私は~がある」とも表現するわけです。この2つの表現方法がある点が、ウクライナ語とポーランド語の文法上の共通点です。また、ウクライナ語で疑問文を作る時に文頭につける文字は、ポーランド語のczyとよく似ています。
ポーランド語との違い
ウクライナ語とよく似ていると言われるポーランド語ですが、2つの大きな違いは、分類上の属性と使用している文字です。ウクライナ語はスラヴ語派の東スラヴ語群でキリル文字を使用していますが、ポーランド語は西スラヴ語群に属しラテン文字を使用しています。
また、ロシア語と似ているウクライナ語の単語は、同じ意味をもつポーランド語とは違っていることも多々あります。
ウクライナでは何語が使えるのか注意しよう
いかがでしたでしょうか。ウクライナでは何語が使えるかおわかりいただけたでしょうか。世界各国色々な地域で使える英語ですが、実はウクライナではほとんど使うことができません。
ウクライナの一部のお店や観光スポットを除いては、使われている言語はロシア語かウクライナ語のみです。ぜひウクライナで何語が使えるのかに注意して、英語とは違う新しい言語を学んでみてはいかがでしょう。
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