ハッサン・ファトヒーが村に託した思い
中東建築の父と呼ばれるハッサン・ファトヒーは、エジプトのアレクサンドリア出身の建築家です。一つの建物だけではなくコミュニティを構築し、近代建築に伝統技法を取り入れ、永続的に暮らせる村をエジプトに残そうとしました。ハッサン・ファトヒーその人と、彼が残したニュークルナ村をご紹介します。
ハッサン・ファトヒーの功績
1900年にエジプトに誕生したハッサン・ファトヒー。89年の人生に幕を閉じるまでに、自らの建築の造型だけでなく、政府の仕事を請け負ったり、アテネに移住して国際的プロジェクトに参加したりしました。エジプトでは、ピラミッドを設計したイモホテプの再来とも言われています。
生い立ち
1900年3月23日にアレクサンドリアに生まれたハッサン・ファトヒーは、地主の息子として生まれました。優秀な成績でキングフアド大学(現カイロ大学)へ進学します。大学では建築と農業を学び、卒業後は芸術大学の職員として、自らの創作活動を開始しました。
またハッサン・ファトヒーは、詩人、ミュージシャン、発明家としても知られています。建築に限らず、ゼロからものを生み出すことに造詣が深かったことが伺えます。アーティストとしてエジプトの宝だったんです。
受賞歴
ハッサン・ファトヒーがさまざまな賞を受賞するのは晩年です。1980年、権威あるアーガーハーン建築委員長賞のほか、第二のノーベル賞と呼ばれるライト・ライブリフッド賞を受賞しています。また、ハッサン最期の年である1989年には国連ハビタット賞を受賞しました。名実ともに世界が認めた建築家です。
建築の特徴
ハッサン・ファトヒーの建築の特徴は、直しながら使っていける永続性の高い建物を目指したところにあります。土地柄に適した技術と素材を生かすパイオニアでした。エジプトの日干し煉瓦(アドベ)や、風を最大限に住居に取り込むバードギールを採用し、伝統を活かした近代建築の創造に尽力しました。
ハッサン・ファトヒーが遺したニュークルナ村
ハッサン・ファトヒーが、その建築技術を惜しみなく投資して作り上げた村が、今もエジプトルのルクソールのそばに残っいます。ニュークルナ村は、王家の墓のすぐそばにあったクルナ村を移す目的で作られました。もちろん、今もそこで暮らしている人々がいます。
クルナ村とニュークルナ村
【エジプト】古代都市テーベとその墓地遺跡
— (株)ファイブスタークラブ (@5starclub) September 16, 2017
BC2000年後半の古代エジプト新王国時代の首都。カイロ南方約730km、現在のルクソール近辺。第18王朝時代に繁栄し、カルナックのアモン大神殿など多くの神殿、葬祭殿、墓が建設された。 pic.twitter.com/tN64OARQKv
ルクソールの王家の墓のそばにあるクルナ村。そこは「墓泥棒村」と言われています。一説には墓泥棒たちが住み着いたことでできた村だとか。成り立ちは定かではありませんが、墓から出土した貴金属や民芸品を売ることで生計を立てていました。遺跡の上にある村を移動するため、ニュークルナプロジェクトが始動しました。
ニュークルナ村の今
New Gourna Village di Mesir karya arsitek Hassan Fathy. Respons thd iklim tropis kering #arid #arsitekpedulienergi pic.twitter.com/aCUA8xUoz7
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ニュークルナ村の建築が始まったのは1940年頃、しかし政府がブルドーザーを出してまで住人を移動させたのは2006年。ハッサン・ファトヒーは村の栄えた姿を見ることはありませんでした。クルナ村の人々の中には移住を拒む人もおり、また、ニュークルナ村自体も長い時の流れで風化してる箇所も見られます。
ハッサン・ファトヒーのニュークルナ村1「モスク」
エジプトの遺跡地区ルクソールのそばに築かれた、ニュークルナ村。そのランドマーク的存在がモスクです。日干し煉瓦を使って造られた温かく柔らかい土色のモスクは、今も村人の祈りの場です。
ミナレット
村の中で現在も使用されているモスク。村のランドマークのようなもので、バスで訪れるときも降車場所の目印になります。多くのモスクは独立した尖塔のミナレットですが、ハッサン・ファトヒーのデザインは建物に付随しています。管理人に許可をもらえばミナレットに上がることもできます。
緑の中庭
エジプトやルクソールの遺跡群は、やはり土埃が舞うようなとても乾いている印象があります。しかしモスクの中の中庭はいつも青々としています。植物がみずみずしく育っているのです。これもまたハッサン・ファトヒーが施した引水のシステムが生きているからです。
ハッサン・ファトヒーのニュークルナ村2「住宅」
日干し煉瓦とバードギールを取り入れて、エジプトの有効な建築技術を残しながら、中は意外と近代的な村の住宅。観光地ではないので入場料はかかりませんが、挨拶や、見せていただいたときのお礼をしっかりしましょう。モスクでは献金を忘れずに。
アハマド・アブデル・ラーディさんの家
In #HassanFathy's #NewGourna #Egypt we partnered with @UNESCO to integrate the community into planning, conservation https://t.co/Pl2qQH1FiU pic.twitter.com/FZektyPwfp
— World Monuments Fund (@WorldMonuments) June 5, 2017
通りからすぐのところにあるアハマドさんの家は、いつでもお宅を見せてくれます。日干し煉瓦の外観の中には、洋書の並ぶ本棚やおしゃれな自転車があり、生活観を感じます。システムキッチンのお宅もあるそう。一般住宅であって観光地ではないので、写真を撮るときは了解をとりましょう。また、日干し煉瓦の造り方も教えてくれます。
アッサラームアレイクム!
「アッサラームアレイクム」とはエジプト語で「こんにちは」という意味です。ニュークルナ村は観光地ではありませんので、住人の方は通りで急に外国観光客を見つけると驚く場合もあります。そんなときには「アッサラームアレイクム!」と元気に挨拶しましょう。
ハッサン・ファトヒーのニュークルナ村3「未来」
ハッサン・ファトヒーは村もしくはコミュニティを作るにあたって、家だけではなく農業や畜産といった生活の糧や、社交場といった人々の潤いとなる場所も計画的に設計しました。そして住人に、修繕や管理の仕方を引き継いだのです。永続的に受け継がれる村を目指したのでした。
ハッサン・ファトヒーは生涯のうちに避難所や警察署、医療施設、学校といった、コミュニティに欠かせない施設を手がけています。彼が生きた1900年~1989年は世界大戦に加え第4次まで及ぶ中東戦争が起きた期間。もし戦争がなければ、ニュークルナ村はルクソールの華やかな観光地の一つとなっていたかもしれません。
ニュークルナ村を象徴するピンク色の壁は崩れ、放置された備蓄庫や主のいない家もあります。しかし今も変わらず、日干し煉瓦は静かに暑さを和らげ続けています。自然に教わり、自然に助けられ、自然と共に生きる。そんな生き方がニュークルナ村にはあるのかもしれません。
ハッサン・ファトヒーのニュークルナ村への行き方
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— ぶんぶん (@_960730) August 15, 2017
ハッサン・ファトヒーの遺したニュークルナ村は、エジプトの歴史の都ルクソールのそばにあります。エジプトの首都カイロより南、全体の南東に位置します。日本からルクソールへ直行便はなくドーハ経由で行きます。日本からドーハまで約12時間、ドーハからルクソールまで約4時間です。カイロへの直行便はあるのでその後陸路もありです。
ルクソールにはルクソール神殿をはじめ、観光地が目白押し。ニュークルナ村以外にも観光できます。ニュークルナ村はナイル川の西岸ですので、ナイル川を渡ることもできます。タクシーまたはマイクロバスで行きます。クルナ村循環バスに乗り、右側にランドマークのモスクが見えたら下車。日干し煉瓦でできたノスタルジアが待っています。
ニュークルナ村への旅はルクソールに泊まろう
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— YABAMURO (@YABAMULAH) August 12, 2017
エジプトの物価は変動しやすいので、旅行に行くまで動向を注視する必要がありますが、基本的にホテルは安めです。2万円近いホテルも中にはありますが、ほとんどが一泊5千円以下。でも決して残念なホテルではないんです。広めの部屋に施設内プール、見た目からしてリゾートホテルばかりです。ホテル選びも楽しんじゃいましょう。
ニュークレナ村へ行ったらエジプト料理も楽しもう
エジプトで最もポピュラーな料理は、豆や野菜を使った料理です。豆をすりつぶしコロッケのようにしたターメイヤ、クレオパトラも愛したモロヘイヤスープなどをぜひ召し上がってみてください。9割がイスラム教徒のため豚肉はNG。肉料理の定番は串焼きのコフタです。
ニュークルナ村に行ったらエジプト土産を買って帰ろう
エジプトのお土産で多いのは、香水やアロマオイル、またはそれを入れるきらびやかなガラスの香水瓶です。女性が喜びそうです。ほかには、ネックレスやアクセサリー。でもただのアクセサリーとは違います。象形文字で名前を彫ってもらうことができるんです。一生の思い出になります。
Elevation of Gourna Mosque, New Gourna Village (Egypt), 1946, Hassan Fathy (architect) https://t.co/4oU3UhNNwb pic.twitter.com/KReFjpYPQB
— ArchNet (@archnet) February 13, 2017
そして、ニュークルナ村へ行った思い出に、ハッサン・ファトヒーが残したデッサン画やニュークルナの風景を絵にしたものなどを、自分のお土産にしてはどうでしょうか。当初ニュークルナ村を作るときは先進的な村がテーマだったそうです。そこにあえて、伝統と昔ながらの農耕を配置したハッサン・ファトヒー、その思いが手元に残ります。
ハッサン・ファトヒーが世界に託した願い
エジプトが戦争を終えインフラ整備に着手し、地方へも波及したのはここ30年の話です。それより以前、風土を最大限に活かして効率的な住環境を作り、後世まで続くよう力を注いだ建築家、ハッサン・ファトヒー。今、観光地として人々を魅了するのは、彼の精神が息づいているからでしょう。彼が見た景色を、ぜひ見に行ってみてください。
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