鉄器を携え勢力をふるったヒッタイトという帝国
世界で初めて鉄器を開発し、突如として歴史の闇に消えてしまった、謎めいた帝国。ヒッタイトの遺跡は現在のトルコ各地に残されており、近年は整備が進んで観光もしやすくなっています。今日は、ヒッタイトと鉄の開発、遺跡と滅亡の原因説などをご紹介したいと思います。
ヒッタイトと鉄器の開発
https://t.co/thYGuhDecl BC20世紀ヒッタイト(トルコ)からヒッタイト帝国はBC19世紀に登場。エジプトの全盛時代ラムゼス2世と互角に戦うが、BC12世紀に衰退する。それを契機に製鉄技術が広まった。
— ちゃっぴー3 (@Infat7ZnXsM4zGn) September 14, 2017
日本は、弥生時代に青銅器と鉄器がほぼ同時に流入(韓鍛冶)
ヒッタイトという国が、鉄を精錬して道具を作ることを始めるまで、金属の道具で一番強いものといえば青銅器でした。高温で鉄を精錬するための耐火煉瓦の発明も手伝って、この帝国が青銅器文化を終わらせたとされます。現在の私たちが目にしない日はない鉄ですが、戦いの場において、青銅器の武器が鉄の武器を持った兵士に圧倒される驚きは大変なものだったことでしょう。
【#静岡豆知識】「韮山反射炉」と聞くと写真のような「あー、あの四角にバッテンの…」と思う人は多いと思うが、あの黒い枠はもちろん後世の補強。もともとはほぼ耐火レンガだけでできていた。https://t.co/JEuqDHwuFx pic.twitter.com/pNpLEBlCpl
— 静岡ジン (@szgmt) August 14, 2017
紀元前16世紀ごろから紀元前12世紀にかけてエジプトと覇を競っていた国でありながら、謎の残るヒッタイト。領土面積が最大だったころは、エジプトの領土と接する地中海東岸から北方一帯、現在のEU諸国の半分以上を占める広大な国でした。末期のほか、ヒッタイト中王国の時代も王位の簒奪が相次いだ不穏な時期だったため記録の少ない時期となっています。
ヒッタイト帝国の首都ハットゥシャの遺跡
古代ギリシアや古代ペルシア帝国が勃興する以前の現在のトルコ。ヒッタイトの首都とされるハットゥシャの遺跡があります。3000年の時が流れ、19世紀になって旅行者に発見されてから、20世紀にドイツの考古学者の発掘調査が行われ、ヒッタイトの遺跡であることが確かめられました。聖所や神殿跡、城壁跡、市街跡、王城跡などが明らかになり、歴史的な価値からユネスコの世界遺産に登録されました。
紀元前15世紀、アナトリア半島に築き上げられたヒッタイト帝国の首都ハットゥシャを訪ねて(トルコ)について https://t.co/vdDE4Uh0gE pic.twitter.com/qOjuW7b82H
— 共同生活@少女 (@florapadilla501) July 18, 2017
強大な帝国の歴史を伝えるハットゥシャの遺跡は、トルコの首都アンカラから東に150キロ、標高1000メートルの小さな村ボアズカレにあります。ここで発見された1万枚を超す粘土板の1枚のくさび形文字から、紀元前13世紀の二大国、エジプト古王国とヒッタイト帝国の和平条約が記されていました。歴史の中で眠り続けていた強国の謎が、一つ紐解かれた瞬間でした。
ヒッタイト帝国の城塞都市だったハットゥシャ
上の画像、右下の写真はハットゥシャのシンボルとして有名な「ライオン門」です。北が低く南が高い広い谷に位置し、東・南・西に尾根のある防御に優れた形で首都全体を取り囲んだ城壁の最西の門でした。その城壁の長さは外周6km。今は上部がなくなっていますが、本来は上部を巨大な石垣アーチ壁に取り囲まれたトンネル状の強固な門で、門扉は一説によるとヒッタイトらしく鉄製であったとのことです。
ヒッタイトの遺跡は乾いた砂漠地帯ではなく、高度1000m以上の山合いで風雨に晒されて年月を経てきたため風化が進んでいますが、それでも3000年以上前の浮彫が多く残されています。これほどの文明が滅んでしまったことに思いを馳せると、万感の思いに胸を打たれずにはいられません。
ヒッタイトから他国への鉄器の伝播
鉄自体の利用は鉄器時代の幕開けよりも古く、紀元前3000年ごろには既にメソポタミアで鉄が知られていました。ただし、かなり初期の頃は鉄の融点が高いため鉄鉱石から精錬することはできなかったのです。精錬法を開発したヒッタイトでは、紀元前1400年ごろに炭を使って鉄を鍛造することによって鋼を作りましたが、鉄の製法は国家機密として厳重に秘匿されており、周辺民族に伝わったのはこの国が滅んだ後のことでした。
大帝国だったヒッタイトが歴史の闇に消えた謎
約5世紀にわたって勢力をふるったヒッタイトですが、謎の滅亡の原因説として、ラス・シャムラ遺跡を発掘したクロード・A・シェッフェル による、海の民が小アジアを横断、ヒッタイトとその同盟国へ攻撃を仕掛けたとする説が一つあります。しかしアナトリア半島内陸部のハットゥシャには痕跡が残っていません。
もう一説は内部と近隣地域から崩壊した後、アッシリア(下の写真は大英博物館収蔵の壁画)の攻撃を受けた事で属国・同盟国が離反、さらには深刻な飢饉で崩壊したとする説です。ウガリット、ハットゥシャで発見された文書によると、ヒッタイト最後の王、シュッピルリウマ2世は「国中の船を大至急、全て回す」よう命令しており、
オロンテス川流域の小麦をキリキア(写真2枚目は現在の観光地)へ運ぶのと同時に、王・その家族・軍隊を移動させようとしていたことから、首都を捨てようとしていたことがうかがえます。また最近では、帝国の末期の3代に及ぶ内紛も深刻な食糧難などを招き、国を維持する力自体が失われていたことが明らかになっています。これからも考古学の研究が進んで、少しずつヒッタイトの謎が明らかになっていくことでしょう。
ヒッタイト帝国の聖所だったヤズルカヤの遺跡
↓ 因みにこれまた今まで何度も呟いているように、早くから知られていたヤズルカヤの浮彫に付随するルウィ語象形文字の銘で、この「大王」を意味する字形が、H.G.ウェルズ『宇宙戦争』の火星人の戦闘機械のモデルになったのでは?と思っている。 pic.twitter.com/S2HY2S7mSD
— 春田晴郎 (@HarutaSeiro) January 29, 2016
またボアズカレ近郊にあるヤズルカヤの遺跡は、トルコ語で「碑文の岩場」を意味し、ヒッタイト時代には重要な聖所として、崇められていました。祭殿跡の遺跡は、現在礎石だけが残る状態となっています。祭壇跡の奥に大きな岩場があり、広い空間のあるところと狭くて深い割れ目のところがあります。特に狭いほうの空間には様々なレリーフが残されており、鮮明なものが多く考古学的に非常に重要なものです。
帝国の王だったトゥドハリヤ4世の浮彫
紀元前15世紀、アナトリア半島に築き上げられたヒッタイト帝国の首都ハットゥシャを訪ねて(トルコ) https://t.co/f6gdKSvTI0
— ミィニャとティーの:sheep: (@nokotachan) August 3, 2017
このレリーフ(写真左手)に彫られているシャルマ神は、主神テシュプとその配偶神ヘバトの息子とされる神です。有翼の神、剣の神、太陽神、月の神、冥府の神などがヤズルカヤの遺跡には描かれており、信仰的には多神教だったことがうかがえます。男性の神は尖った帽子に丈の短いスカート状の服、女性の神は円筒状の被り物に長い衣という恰好が多いようです。
トゥドハリヤ4世の時代はヒッタイト王の神聖化が頂点に達したと言われ、また各種の大規模神殿が建設されました。彼は干ばつに備えて13のダムを作ったとあり、カラクユやアラジャホユックの近くで実際に彼の碑文を伴うダム遺跡が発見されている。またエフラトゥン・プナルやヤルブルトの水辺祭祀遺跡も、トゥドハリヤ4世の時代に作られたのではないかと言われています。
帝国なき後の見どころその1「アダナ」
前述の章で触れた、ヒッタイト時代にはキリキアと呼ばれていた土地で、写真のメルケズジャーミィがあるところです。この建築物はトルコのサバンジュ財閥によって建設されました。トルコらしいディテールの美しい建物で、周りがかなり大きな公園になっており、人間が数十人中に入るかという大きさの地球儀のオブジェがついた噴水もあります。
帝国なき後の見どころその2「カッパドキア」
トルコが好きな人ならご存知かもしれませんが、アダナの近くにある観光地でカッパドキアがあります。カッパドキアはかつてヒッタイトが存在していた、アナトリア高原の火山によってできた大地をいいます。後期青銅器時代にはヒッタイト軍の本拠地になっていたこともあります。何といっても外せないのは"妖精の煙突"と呼ばれる岩の形成物の間に位置するギョレメ。
1985年にユネスコの世界遺産リストに加えられました。その他にも本当にたくさん見どころがあります。岩窟教会、カイマクル・デリンクユあるいはオズコナックの地下都市、ゼルヴェ谷、アヴァノスとその陶器、ウチヒサルの岩の要塞、ウフララ渓谷とソアンル。その特異な景観から、映画のロケーションに使われることもあります。
2015年 第89回キネマ旬報ベスト・テン 外国映画ベスト・テン 第8位
— UPLINK (@uplink_jp) January 9, 2016
『雪の轍』
渋谷アップリンクで開催中の【見逃した映画特集2015】にて絶賛上映!https://t.co/y2KT5u4rnU pic.twitter.com/lU2apWyAcl
例えば、「風の惑星/スリップストリーム 」という1989年のイギリスのSFアクション映画。上の写真、2014年のトルコ映画「雪の轍 」にも使われています。元俳優のアイドゥンが年の離れた妻や妹とともに開いたホテルの物語で、この年の第67回カンヌ国際映画祭でパルム・ドール賞(グランプリ)を受けました。
ヒッタイトを詳しく知りたくなってしまったらこの本!
ヒッタイト王国の発見(1991年5月、クルート ビッテル 著, 大村 幸弘・ 吉田 大輔 翻訳)という詳しい本が出ており、Amazonで入手することができます。専門的な本なので、ちょっと値段が高いとおもうかもしれませんが、内容はかなり詰まっています。ヒッタイトが好きでトルコに行こうとされてる方は必読といってもいい本で、ビジュアル的にも満足度が高いといえます。
コンスタンティヌス11世
— オスマン帝国bot (@E_ottoman_bot) September 20, 2017
ビザンツ帝国最後の皇帝。史上最後のローマ帝国皇帝。
滅びゆく帝国を守ろうと必死に戦うが1453年の攻防戦で戦死した。信心に厚い温厚な人物だったとされる。夏目漱石の「我輩は猫である」に出てくるぞ pic.twitter.com/UsXers9E4i
また、NHK出版から出ているトルコ三大文明展~ヒッタイト帝国・ビザンツ帝国・オスマン帝国(2003年)。3つの海(黒海・地中海・エーゲ海)に 囲まれ、アナトリア高原を中心とした現在のトルコを舞台にした古代オリエントの歴史について書かれていて、やや大きめの本です。こちらもおすすめです。
ヒッタイトの謎の解明に期待を寄せて
ヒッタイトが残した謎は、私たちの心を魅了してやみません。高度な文化を発達させた足あとが残る遺跡は一度見ると、行ってみたい!と思う気持ちを起こさせます。すでにヒッタイトや、この国が出てくる本・漫画が好きで行きたいと思っている人。興味が出始めた人。今はなき壮大な国の遺跡を、実際にその目で味わってみてください。
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