奈川へとうじそばを食べに行こう!
北アルプスは乗鞍岳ふもと・長野県松本市奈川(ながわ)に伝わる「とうじそば」。香り高い地元産そばを、竹で編んだ小さな「とうじかご」に入れて鍋に投入し、具だくさんの汁にくぐらせる食べ方が独特のそばです。
昔から地元の人々に愛されてきたこの郷土料理は、今も訪れる人の身や心をほかほかと温めてくれます。野麦峠の里に伝わる、ちょっと変わったそばを、食べ方も含めてご紹介します。
とうじそばとは?
「とうじそば」は、奈川発祥の郷土料理です。奈川では、「投げる汁」と書いて「投汁(とうじ)」と読み、そばをつゆにひたしたり、温めたりする意味があります。
鍋につゆを入れて鶏肉や山菜などを加えて火にかけ、一人前ずつ小分けしたそばを竹製の「とうじかご」に入れ、熱いつゆでしゃぶしゃぶして食べます。
ラクロスのスティックを小型にしたような「とうじかご」にそばを入れ、ゆらゆらくぐらせて温める独特の食べ方が生む、豊かな香りと旨みは忘れられない味を演出します。
長野県奈川から生まれた郷土料理
奈川は稲作に不向きな寒冷地のうえ、平坦な土地も少なく、そばは数少ない貴重な農作物でした。そうした環境の中、手打ちそばを寒い時期でもおいしく食べようと生まれたのが「とうじそば」です。
戦後に開田事業が行われて稲作が始まるまでは、そばは主要な穀物で、冠婚葬祭などのごちそうとして、振る舞われてきたのです。
奈川ってどんなところなの?
長野・岐阜県境にある乗鞍岳(標高3026m)東麓の山村で、旧奈川村は2005年に松本市に編入されました。標高約1000mの高地で、耕地面積は約10%。飛騨高山へ通じる街道にある野麦峠は、かつて飛騨の娘たちが信州の岡谷・諏訪の製糸工場へ糸ひき稼ぎに行き来した難所で、ノンフィクション『あゝ野麦峠』で全国的に有名になりました。
とうじそばの特徴や魅力
標高が1000mを超す高地にある奈川は、平地が少ないうえ冷涼な気候で寒暖の差が激しく、稲作には不向きとされ、主にそばが栽培されてきました。やせた地で育つそばは収量が少なく、そばの実も小さいのが特徴です。
しかし、小さい実は逆に少ない栄養分を吸収しようとする生命力が強く、豊かな香りと甘みとなって凝縮される、といわれます。
風味が豊か
寒冷地で厳しい環境の奈川のそばは、粒が小さいのが特徴ですが、その粒には他の産地にはない香りと甘みが詰まっている、といわれます。そばの実の形は三角錐で、その一角でも地面に着けば発芽するほど強い生命力を持っています。
ただ、殻は繊細で熱に弱いため、製粉の際に風味が飛んでしまう恐れがあります。奈川では少しずつゆっくり挽くことで、風味が豊かになります。
一般の秋そばよりも栄養価が高い
そばの実は近年、スーパーフードとして人気が高まっていますが、奈川そば振興組合が、夏そばと秋そばの2期作試験をしたところ、夏そばに含まれるルチンと遊離アミノ酸の数値が一般的な秋そばより高く、夏そばの方が栄養価が高いことがわかりました。
このため、台風の被害を受けやすい秋そばだけでなく、夏そばの作付け面積を拡大して奈川そばのブランド化を進めていくことになりました。
奥深い味わい
寒冷の高地という川奈の過酷な環境が生んだ小粒の実からできたそば、山で採れた雑キノコや鳥獣の肉などから取った出汁、そしてとうじかごに投入してしゃぶしゃぶする独特の食べ方。そんな「山の神」たちの出会いが、つゆの旨みとそばの香りを醸し出し、「とうじそば」の奥深い味わいをもたらしました。
つゆの旨味とそばの香りが食欲をそそる
「とうじそば」の深い味わいの秘密はまず、つゆの美味しさです。山で採れた山菜、とりわけたくさんの雑キノコからは想像を超える旨みが出て、鰹だしなどとコラボしてつゆのベースを作ります。
これに鶏やカモなどの旨みがオンされます。そして、香りと甘み豊かなそばの実を、風味を損なわずに製粉したそば。それらが一体化して人々の食欲をそそるのです。
とうじそば「独特の食べ方」
鍋に醤油仕立てのだし汁を入れ、鶏やカモなどの肉と季節の野菜、キノコなどを加えて煮立たせます。そばは、一度ゆでた後よく冷まして一人前に小分けし、竹で編んだ「とうじかご」に入れてだし汁の鍋に入れ、さっと温めます。
温まったそばをお椀に盛って汁と具をかけ、お好みで七味やわさび、ねぎなどの薬味を入れていただきます。香り高いそばを、竹製のかごに入れ、それを煮立った鍋に投入してアツアツにして食べる。そんな独特の食べが、脳裏に焼き付きます。
奈川にある『カントリーロッジ 木の実』では、期間限定で「とうじそば」を提供。宿泊客には、「とうじそば」や日本酒と一緒にオリジナルの料理をふるまっています。その一部をご紹介します。
馬刺しを野生のわさび漬けでたたきにして食べる
長野県には熊本県や福島県などとともに馬肉を生で、馬刺しとして食べる習慣があります。高タンパク・低カロリーの良質な肉は、ヘルシー志向の中で女性の人気が高く、信州での刺身の定番になっています。
生姜・にんにくを薬味に醤油でいただくのがポピュラーですが、山で採った野生のわさびを使った茎漬けを細かく刻み、馬刺しにつけて食べる、さっぱり感は格別です。
トリモモの朴葉味噌焼き
朴葉(ほうば)は、岐阜県飛騨地方に多いホオノキの葉で、香りがよく殺菌作業があるため、料理に使われます。みそにみりんや日本酒などの調味料、ネギなどの薬味、シイタケなどをまぜ、朴葉にのせて焼きます。
農水省選定「農山漁村の郷土料理百選」で選ばれた岐阜県の郷土料理です。牛、鶏、鮭、ブリ、野菜。どんな具材もおいしくしてしまう万能の調理法です。
雑キノコと秋なすのみそ煮
秋の野山は収穫物の宝庫です。クリ、アケビ、山ぶどう、そしてキノコ。キノコの種類は多く、素人が見分けるのは大変です。
キノコ狩りは、慣れた地元の人や案内人と一緒に楽しむのがベストです。味は雑キノコごとに違うため、調理法もまちまちですが、柔らかくてみずみずしい秋なすを加えたみそ煮は外せません。
とうじそば「おすすめのお店」
「とうじそば」発祥の地・松本市奈川には、「とうじそば」や郷土料理が美味しい、おすすめのお店がたくさんあります。懐かしい薪ストーブがある重厚感のある合掌造りの名店や、美味しい郷土料理を楽しめる人気店など、奈川で「とうじそば」や郷土料理が美味しいおすすめのお店を5軒ご紹介します。
手打ちそば 福伝
奈川で「とうじそば」や郷土料理がおすすめの店1軒目は『手打ちそば 福伝(ふくでん)』です。野麦街道沿いにある合掌造り風の立派な店です。入り口に「信州そば切りの店」認定の大きな看板が掲げられています。
のれんをくぐって店内に入ると、太い梁と薪ストーブが目に飛び込んできます。どこか豪農の館を思わせる重厚感が漂います。店内にはテーブル席とカウンター席、奥に8畳ほどの座敷が2間あって、合わせて50人ほど収容できます。
メニューは、「とうじそば」とおじや(ライス・玉子付き)、それにもりそば、きのこそばで、「品切れになり次第閉店」と書かれています。ほとんどのお客さんが名物の「とうじそば」を注文し、食べ終わった後に必ずおじやを楽しんでいくようです。
手打ちそば 福伝の基本情報
奈川で「とうじそば」や郷土料理がおすすめの店『手打ちそば 福伝』へのアクセスは、長野道松本インターを降り、国道158号から野麦街道を進み、長野県道26号線沿いを奈川方面へ向かった場所にあります。松本インターから45分ほどです。
駐車場は10台ほど駐車可能です。公共交通機関でのアクセスは、最寄り駅の松本市バス・奈川線「中地川」バス停から、徒歩4分ほどです。
奈川で「とうじそば」や郷土料理がおすすめの店『手打ちそば 福伝』の営業時間は、水曜日以外の全日11時から18時までです。定定休日は水曜日となります。電話番号は下の表に掲載しています。
住所 | 長野県松本市奈川古宿4233 |
電話番号 | 0263-79-2003 |
そばの里奈川
奈川で「とうじそば」や郷土料理がおすすめの店2軒目は『そばの里奈川』です。野麦峠スキー場入り口の交差点にある、山小屋風のお店です。店は駐車場から一段高い所にあるため、車椅子は階段横のスロープを使います。
広い店内にはテーブル席と座敷席があり、名産品などを売るお土産コーナーも併設されています。座敷席からは、そばを打つ店員の姿がガラス越しに見られ、その手さばきの良さに思わず見入ってしまいます。
席に着くと、名物の保平(ほだいら)かぶの漬物が、そば茶とともに出されます。紫色をした、ここでしか取れないかぶを、合成着色料を使わずに甘酢漬けしたお通しは、絶品です。衣をそばの実にした「そばの実コロッケ」も外せません。
そばの里奈川の基本情報
奈川で「とうじそば」や郷土料理がおすすめの店『そばの里奈川』へのアクセスは、長野道松本インターを降りて国道158号から野麦街道を進み、長野県道26号線沿いを奈川方面に向かった場所にあります。松本インターから1時間ほどです。
駐車場に駐車可能です。公共交通機関でのアクセスは、最寄り駅の松本市バス・奈川線「奈川高原入口」バス停から、徒歩1分ほどです。
奈川で「とうじそば」や郷土料理がおすすめの店『そばの里奈川』の営業時間は、火曜日以外の全日10時から16時までで、そばがなくなり次第閉店します。定休日は火曜日となりますが、年始年末などの場合は無休となることがあります。電話番号は下の表に掲載しています。
住所 | 長野県松本市奈川1173-14 |
電話番号 | 0263-79-2906 |
仙洛
奈川で「とうじそば」や郷土料理がおすすめの店3軒目は『仙洛(せんらく)』です。山の奥深い場所にひっそりと佇む店内には、薪ストーブと畳敷きが、どこか懐かしさを感じさせます。
名物の「とうじそば」の出汁は、濃いめの味付けで、季節の旬の山菜や、鶏肉などの旨みが加わり極上の味となっています。新そば祭りの時期には、これらの具材としてマツタケが入って大好評です。岩魚の塩焼きや丼物も人気があります。
『仙洛』は、日帰り温泉施設も併設しているため、冬にはスキーを楽しみ、日頃の疲れを温泉で癒しながら、おいしい「とうじそば」を味わうこともできます。
仙洛の基本情報
奈川で「とうじそば」や郷土料理がおすすめの店『仙洛』へのアクセスは、長野道松本インターから上高地方面に向かった場所にあります。松本インターから1時間ほどです。
駐車場は30台ほど駐車可能です。公共交通機関でのアクセスは、最寄り駅の松本市バス・奈川線「奈川高原入口」から徒歩1分ほどです。
奈川で「とうじそば」や郷土料理がおすすめの店『仙洛』の営業時間は、全日11時から15時までです。定休日はなく不定休となります。電話番号は下の表に掲載しています。
住所 | 長野県松本市奈川1044-124 |
電話番号 | 0263-79-2277 |
手打ちそば こばやし
奈川で「とうじそば」や郷土料理がおすすめの店4軒目は『手打ちそば こばやし』です。歴史ある山小屋のような佇まいの店構えの、こじんまりとしたお店です。こちらのお店には現在「とうじそば」はありませんが、奈川の素朴なそばの味を楽しめる老舗です。
山小屋風の店内には、テーブル席と小上がりを合わせて20人ほど収容できます。テーブル席にセットされたパイプ椅子が昭和レトロを感じさせ、癒される雰囲気があります。
ご夫婦経営の老舗のメニューは、とろろそば、ざるそば、かけそばなど少ないものの、その味はお墨付きです。そばちょこに入ったとろろに、鰹だしのそばつゆを注ぎ、そばをつけていただきます。香り高きそばの風味との相性は抜群です。
手打ちそば こばやしの基本情報
奈川で「とうじそば」や郷土料理がおすすめの店『手打ちそば こばやし』へのアクセスは、長野道松本インターを降り、国道158号から野麦街道を進み、長野県道26号線沿いを奈川・野麦峠方面に向かった場所にあります。松本インターから1時間10分ほどです。
駐車場に駐車可能です。公共交通機関でのアクセスは、最寄り駅のJR大糸線「松本駅」から、徒歩14分ほどです。
奈川で「とうじそば」や郷土料理がおすすめの店『手打ちそば こばやし』の営業期間は、4月後半から11月下旬までです。営業時間は全日11時から16時までです。定休日はなく不定休となります。電話番号は下の表に掲載しています。
住所 | 長野県松本市奈川2887 |
電話番号 | 0263-79-2446 |
ちゅうじ食堂
奈川で「とうじそば」や郷土料理がおすすめの店5軒目は『ちゅうじ食堂』です。地元産のそばを使った「とうじそば」は、季節によってはマツタケの入ったものを楽しむこともできます。
漬物で一服している頃、テーブルにガスコンロと「とうじかご」、出汁の入った鍋が運ばれます。名物の「とうじそば」の出汁は、キノコや野菜の入ったあっさりとした味わいのもので、そばの香りが引き立ちます。
一般的なそばとは一味違った食べ方をする「とうじそば」。そばを楽しんだあとのシメのおじやは、目の前で作っていただけます。
『ちゅうじ食堂』では、「とうじそば」を1人前から注文できるよう、小鍋で味わう「とうじそば」もあります。「とうじそば」は1人前1600円、2人前2500円、3人前3750円となります。このほか、山菜そばや岩魚定食も召し上がれます。
ちゅうじ食堂の基本情報
奈川で「とうじそば」や郷土料理がおすすめの店『ちゅうじ食堂』へのアクセスは、長野道松本インターを降り、国道158号から野麦街道を進み、長野県道26号線沿いを奈川・野麦峠方面に向かった場所にあります。長野道松本インターから1時間ほどでアクセスできます。
駐車場は20台分ほど駐車可能です。公共交通機関利用でのアクセスは、最寄り駅の松本市バス・奈川線「中地川」から、徒歩1分ほどです。
奈川で「とうじそば」や郷土料理がおすすめの店『ちゅうじ食堂』の営業時間は、全日11時から17時までです。定休日はなく不定休となります。電話番号は下の表に掲載しています。
住所 | 長野県松本市奈川3740 |
電話番号 | 0263-79-2041 |
とうじそばの食レポ「手打ちそば 福伝」
奈川で「とうじそば」や郷土料理がおすすめの店『手打ちそば 福伝』は、「とうじかご」を使って、出汁の中でそばを温めていただく奈川名物「とうじそば」や郷土料理を味わおうと、足を運ぶリピーターが多い名店です。
そばの入ったかごを、出汁の鍋にくぐらせる独特な食べ方についても、丁寧に教えていただけるため、安心して堪能できます。6月の新そばのシーズンになると、こちらのお店でも季節の旬を生かしたそばメニューがいただけます。
外観の特徴
長野県道26号線と新野麦峠街道との分疑点にある「とうじそば発祥の地」の看板をそのまま直進すると、ほどなくしてお店に到着します。どっしりとした合掌造り風の立派な店構え、認定看板が目を引きます。
『手打ちそば 福伝』のどっしりとした合掌造り風の立派な店構え、認定看板が目を引きます。6月の新そばの時期になると「新そばまつり」のポスターが貼られます。店回りにある駐車場に車をとめ、のれんをくぐります。
店内の様子
奈川で「とうじそば」や郷土料理がおすすめの店『手打ちそば 福伝』の店内に入ると、長い間老舗を守ってきた太い梁が鎮座しています。懐かしい薪ストーブが、アットホームな店内の雰囲気を演出しています。
小さなカウンターやテーブル席と座敷があり、50人ほどは入ることができる広さです。しかし休日ともなれば、とうじかごを出汁にくぐらせていただく名物を求め、県外や外国からのお客さんでにぎわいます。
オーダーしたメニューの感想など
奈川で「とうじそば」や郷土料理がおすすめの店『手打ちそば 福伝』は、山菜そばやキノコそばなど、そばのメニューが豊富なうえに、おつまみとしてあげそばだんごなど、名物メニューも楽しめます。
『手打ちそば 福伝』を訪れると注文が最も多いのは、「とうじそば」です。1人前1400円、大盛りは1700円となります。シメ用には200円追加で卵とごはんがついたおじやのセットを注文するのが人気です。
コンロにのせた鍋の出汁の中には、キノコやきくらげ、鶏肉などの具材がたっぷりと入っています。食べ方の説明書きを参考に、香りのよいそばをとうじかごに入れ、出汁にくぐらせます。
お椀に移しそばをすすると、甘辛い出汁と、細めでのど越しの良いそばが、絶妙のバランスです。すんきの漬物と野沢菜も出され、郷土の味を満喫できます。
長野の奈川で美味しい「とうじそば」を食べよう!
奈川で「とうじそば」や郷土料理が美味しいおすすめの店はいかがでしたか?1人前からでもかごを使って「とうじそば」をいただける人気店や、郷土料理が充実している名店など、一度は味わってみたいお店ばかりです。ぜひ奈川を訪れ、竹製のとうじかごをくぐらせる独特の食べ方を楽しみながら、美味しい「とうじそば」や郷土料理を堪能してください。
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