栃木の名物料理「しもつかれ」
知る人ぞ知る栃木県の名物料理「しもつかれ」をご存じでしょうか。その独特な様相から、「珍グルメ」と呼ばれてしまうこともあるしもつかれ。栃木では古くから食べられている家庭料理であり、健康食としても重宝されているのです。他の地域の方にはいろいろと謎が多いしもつかれは、一体どんな料理でどんな作り方なのか、さっそく見ていきましょう。
しもつかれはれっきとした栃木の郷土料理!
しもつかれは、栃木の郷土料理としてしっかりと根付いた名物グルメです。なんと「栃木の味」としてご当地ポテトチップスにも登場するくらいですから、その名は全国的に知られていてもおかしくないはずなのですが、「知らない」「食べたことがない」という方も多いようです。栃木に行かないと目にすることができないという点ではレア感が満載の名物です。
しもつかれは、2007年に農林水産省が主催した「農山漁村の郷土料理百選」において、ちたけそばとともに栃木県を代表する郷土料理として選出されました。ちたけそばとは、栃木の山中で摂れるちたけ(乳茸)をなすと一緒に炒め煮にし、ちたけで出汁をとったつゆでいただくおそばです。現在ではちたけの収穫量が減り、地元ではマツタケ以上に貴重と言われています。
北関東で広く食べられているしもつかれ
栃木の名物であるしもつかれですが、実際には栃木県の中部から北部地域を中心に、群馬、茨城、埼玉の北関東や、千葉、福島などの一部地域でも食べられています。地域によって、「しもつかり」「しみつかり」「しみつかれ」「すみつかり」「すみつかれ」などと、微妙に違う名前で呼ばれています。ここに、しもつかれが生まれた由来のヒントが隠されています。
しもつかれは栃木県民ならだれでも知っている料理です。基本的な作り方は決まっているのですが、各家庭それぞれにその家のしもつかれが存在し、代々レシピが受け継がれています。現在では材料や作り方も簡略化されていますが、栃木県では、現在も自宅の庭などで釜に火を起こし、しもつかれを作るのが恒例行事となっている家庭もあるようです。
しもつかれのビジュアル紹介
気になる名物グルメしもつかれの見た目ですが、残念ながら、お世辞にもきれいとは言い難いビジュアルとなっています。一見しただけでは何が入っているかわからないうえに、いろいろな具材がごちゃまぜになって、全体的にドロッとした見た目になっているので、パッと見で敬遠してしまう方も中にはいるようです。特に、お子様はその傾向が強めです。
しもつかれは、地域や好みによってさまざまな食べ方をするそうです。出来立てアツアツをそのまま食べたり、冷蔵庫でキンキンに冷やして食べたりします。また、そのままの状態で食べるほか、ご飯にのせて丼のようにして食べることもあります。しもつかれの汁気がご飯に染みたところが美味しいのだそう。また、しもつかれをお茶請けとして食べる家庭もあるようです。
気になるしもつかれの味は?
見た目がちょっと独特なしもつかれですが、その味も個性的です。まず初めに、好き嫌いが分かれるのが、特徴的な「香り」です。具材それぞれの香りが混ざりあうことによって、さらに独特の香りになっています。作り方によっては生臭さを感じる場合もあり、この香りが苦手でしもつかれを食べることができないという方がいることも事実のようです。
好き嫌いが分かれてしまうしもつかれの味ですが、好きな方にはたまらない美味しさなのだそうです。また、「子どもの頃は苦手で食べられなかったけれど、大人になってから大好きになった」という方も多いとのこと。大人になり、しもつかれをお酒のおつまみとして食べることによって、その美味しさに気付くこともあるようです。お子様には少し敷居の高い「大人の味」と言えるでしょう。
しもつかれの由来を調査!
しもつかれという料理の由来は、旧暦の2月最初の午の日である「初午(はつうま)」の日の朝に、稲荷神社の祠にお供えする行事食として作られたことに始まります。そのため、しもつかれには、魔除け、厄除け、無病息災などを祈願する縁起物という意味合いがあります。栃木県の郷土料理として各家庭に根付くしもつかれですが、もともとはお供え料理が由来となっています。
しもつかれという一風変わった料理名の由来は、煎りたての大豆を酢に浸した食品「酢むつかり」を起源とする説が有力だということです。この酢漬けの大豆は、江戸期には飢饉の時に飢えをしのぐための食物である救荒食(きゅうこうしょく)とされていて、現代でいう保存食の役割を果たしていたようです。その他、栃木県の旧名「下野」を由来とする説もあるようです。
初午の日にしもつかれを稲荷神社に供える際、昔は藁を束ねて作った「わらづと」という入れ物に入れて、赤飯と一緒にお供えしていました。現在でも、全国の稲荷神社では初午の日に「初午祭」が行われ、地域によりさまざまなお供え物をしますが、栃木県ではしもつかれと赤飯をお供えします。しかし、現在は初午の日限定ではなく、一年中いつでもしもつかれを食べることができます。
しもつかれの材料をチェック!
ここで、しもつかれに使われている材料を見ていきましょう。まず、必ず入っているのが「鮭の頭」です。もともとの由来では、しもつかれを作る際はお正月の「新巻鮭」の残りの頭を使っていましたが、現在はスーパーなどでしもつかれ用に鮭の頭を販売しているところもあるようです。どうしても鮭の頭が手に入らない場合は、鮭のアラでも作ることができます。
しもつかれの独特の香りを醸し出す由来となっている材料の一つが「酒粕」です。この酒粕の使用量によって、しもつかれの見た目と風味に違いが出てきます。しもつかれに入れる材料の割合に明確な決まりはないので、各家庭それぞれ好みの分量で作ります。その味が代々受け継がれているため、同じしもつかれでも家庭ごとに見た目も味もかなり違っています。
さらに、炒った大豆と根菜類などを使います。初午の日の行事食を由来としていることから、大豆は本来、節分の日の福豆の残りを使いますが、現在は必ずしも福豆を使わなくてもよいとされています。また、稲荷神社にお供えするという名目から、油揚げを入れることも多いそうです。家庭によっては大豆以外に金時豆などを入れるところもあるようです。根菜は、大根や人参が一般的です。
意外とカンタン?しもつかれの作り方
ここで、しもつかれの作り方をご紹介します。まず、鮭の頭を細かく切って煮込みます。沸騰したら弱火にして、「鬼おろし(竹や木でできた目の粗いおろし器)」でおろした大根と人参などを加えます。鬼おろしを使うことで、野菜の歯ごたえと風味を残すことができます。「鬼おろし」がない場合はミキサーにかけるか、ビニール袋に野菜を入れて棒などで叩いて細かくします。
次に、炒った大豆を入れて煮込みます。普通の鍋の場合弱火で3時間から4時間弱火で煮込みます。圧力鍋で作る場合は30分ほど煮込めば出来上がりです。十分に煮込んだら、酒粕をちぎって入れて溶かします。酒粕がしっかり溶ければ完成です。通常は鮭の頭の塩分と酒粕のみで味をつけるのですが、醤油やみりんなどの調味料を加える家庭もあるようです。
しもつかれには家庭ごとの味がある!
基本的な作り方は同じですが、実際のしもつかれに使われる材料や作り方、味付けは各家庭ごとに異なり、その家庭のレシピが代々受け継がれています。そのため、家庭によって味付けも甘め、しょっぱめなどの違いがあり、汁気が多いもの、逆に汁気が全くないものなど、見た目からしてかなり違います。
しもつかれに使う材料にはこれといった制約はないので、画像のように椎茸やさつま揚げなどを入れたり、栃木名物の湯葉を入れたりする家庭もあるようです。また、茨城県で食べられているしもつかれは、塩や醤油で味を調えた汁物になっているなど、地域によってもしもつかれの作り方には差があります。
各家庭で作り方が異なるしもつかれには、昔から「しもつかれを7軒分食べ歩くと病気にならない」「なるべく多くの家のしもつかれを食べると無病息災」などという言い伝えがあります。しもつかれに使われる荒巻鮭の頭や福豆といった材料には「邪気を払う」という意味合いがあるので、そのような言い伝えにつながっていると考えられています。
白熱!「しもつかれコンテスト」
各家庭ごとに作り方が伝わるしもつかれですが、なんと、栃木県では「全日本しもつかれコンテスト」なるものが毎年開催されています。このコンテストはまちおこしと「しもつかれを若い世代に伝えたい」というコンセプトのもとに開催されていますが、2018年の第18回コンテストでは、26品が出品され、その味を競いました。
コンテストの会場となる日光市今市の「道の駅日光 日光街道ニコニコ本陣」には、600名以上ものお客さんが来場します。来場者は出品されたしもつかれを一口ずつ試食し、一番美味しかったと思う出品者に投票します。たくさんのしもつかれを食べ比べることで、しもつかれの驚くほどのバリエーションを知ることができる人気イベントです。
しもつかれはココで買える!
栃木名物のしもつかれは、栃木県内のいろいろな場所で購入することができます。しもつかれコンテストの会場になる「道の駅日光 日光街道ニコニコ本陣」や、宇都宮市の「アグリランドシティショップ」、佐野市の「道の駅 どまんなかたぬま」、那珂川町の「道の駅ばとう」など、道の駅や産直市場などで販売しているので、探してみてください。
栃木県内のスーパーマーケットでは、しもつかれの市販品も販売されています。画像は一般によく見かけるタイプのもので、通信販売もしているようです。市販品ということで、最もオーソドックスな材料を使い、調味料で味を調えてあります。初めてしもつかれを食べるという方にとってはおすすめの一品です。
栃木県ではしもつかれが給食に出る!
栃木県内では、学校給食にしもつかれが出てきます。2月の初午の日の前後に、「初午の日メニュー」として赤飯とともに出されることが多いようです。しもつかれは「大人になってからその美味しさに気付いた」という方も多いことから、残念ながら小学校などではしもつかれを残してしまう子も一定数いるようですが、栃木名物に親しむ一環として続いているようです。
しもつかれはお店でも食べられる!
近年、しもつかれを栃木名物としてメニューに加える飲食店も増えてきているようです。画像は、塩谷郡塩谷町「cafeみつわ」のランチです。旅行先などでしもつかれを購入する機会がなくても、食事の一品として出てきたら、ぜひ味わってみてください。栃木県近隣の温泉旅館などでは、朝食にしもつかれが出てくることもあるようです。
こちらの画像は大田原市「たわら寿」の定食です。先付としてしもつかれが出されています。地元の方にとって、しもつかれはサラダ感覚で食べられるもののようで、少量のしもつかれは箸休めにぴったりです。飲食店で出されるしもつかれは、家庭で作るものよりも洗練された上品な味わいで、初めて食べる方にも抵抗なく味わえそうです。
しもつかれアレンジメニューその1:しもつかれ揚げ餃子
しもつかれは、さまざまな料理にアレンジすることができます。手軽でおすすめなのが「しもつかれ揚げ餃子」です。餃子のタネにしもつかれの材料を混ぜ、餃子の皮に包んで揚げれば、簡単にご家庭でも作ることができます。酒粕の香りがマイルドになり、食べやすくなります。「道の駅みぶ」内のレストランでは、しもつかれ餃子を3個200円で販売しています。
しもつかれアレンジメニューその2:しもつカレー
栃木県では「しもつカレー」が大人気だそうです。もともとは那須塩原市にある塩原温泉が企画したご当地メニューでしたが、現在は栃木県内のいろいろな場所で食べることができます。しもつかれの材料を、お店によって自由にスープカレーやグリーンカレーにアレンジしていて、うどんやそば、パンやパスタまでバラエティに富んだしもつカレーが味わえます。
栃木のしもつかれをご賞味あれ
初午の日の縁起物という由来を持ち、今も栃木県の「おふくろの味」として受け継がれるしもつかれ。県外の方にはあまりなじみがない料理ですが、身近な材料で作れて、作り方も簡単なしもつかれは、栄養満点のバランス食でもあります。食わず嫌いはもったいない!栃木県に旅行に行ったら、ぜひ一度は名物しもつかれを試してみてください。
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