傲然たる山容で迫り来る剱岳
富山の街を見上げると、街全体に覆い被さるように傲然たる山容で迫り来る剱岳は、日本国内でも一般登山者が登る山のうちでは、非常に難易度が高い山として知られています。ここでは、その代表的な登山ルートと難易度の高い箇所の注意点、その経過時間やアクセス方法など、初心者にも理解できるように紹介していきます。
荘厳な美しさの剱岳
氷見 剱岳と水平雲 撮影:木偶乃坊写楽斎
— 木偶乃坊写楽斎 (@syaradeku) November 23, 2017
曇天でも立山連峰が見える事が有ります。
この時は麓あたりに水平な雲が有る珍しい
光景でしたのでシャッターを切りました。 pic.twitter.com/sUM3CJwcwk
標高2999mの剱岳は、北アルプスの北部に位置し日本海側に面しています。そのため季節風の影響を受けやすく、降雪量が多いため、谷筋にはいくつもの雪渓が残り銀嶺の自然美を現しています。剱岳は、日本三大雪渓のひとつとして雪と岩の殿堂ともいわれ、多くの登山者にとって難易度が高く一度は征服したいと願う憧れの山として有名です。
美しさと危険が隣り合わせの剱岳
剱岳山頂へアクセスする稜線は、いくつもの岩尾根と深い谷で形成され、その姿はまるで鋭い剣が立ち並んでいるかのようで、山麓からも見事な景観を現しています。その美しさと相反してそれぞれの尖ったピークは、国内でも有数の最も難易度の高いルートと知られ、危険と隣り合わせにもかかわらず、多くの登山愛好家を魅了し続けています。
いくつかある剱岳登山ルート
剱岳への登山ルートは、途中までで折り返す初心者向けのトレッキングや中級者上級者向けの難易度の高いコースなどいくつかあります。剱岳の一般的なアクセスルートは、別山尾根ルートと早月尾根ルートがあり、なかでも一服剱から前剱を経てカニのタテバイ、ヨコバイと呼ばれる鎖場を抜けアクセスする難易度の高いルートが人気です。
別山尾根登山ルートから剱岳へ
別山尾根登山ルートは、黒部アルペンルートの最終駅である室堂からアクセスします。ここで標高2450mです。室堂までの時間は、富山から立山まで電車で65分、立山から美女平までケーブルカーで7分、美女平から室堂まで立山高原バスに乗って50分です。長野からは黒部湖からケーブルカー、ロープウェイ、トロリーバスを使って22分です。
剱岳へ向け室堂から別山乗越
室堂を出て遊歩道を歩き、ミクリガ池とリンドウ池を横目に見ながら、みくりが池温泉、地獄谷展望台を通り過ぎキャンプ場と温泉雷鳥荘のある雷鳥平へアクセスします。その後さらに雷鳥平のキャンプ場を過ぎ、別山乗越まで標高差500m、約2時間の雷鳥坂を登っていきます。この辺りは雷鳥沢と呼ばれ、雷鳥に遭遇することもあります。
今日の立山連峰(雷鳥沢キャンプ場) pic.twitter.com/Sc2HJboXLA
— しみっちゃん (@shimitchan) August 27, 2017
雷鳥沢キャンプ場は、剱岳登山や立山縦走、奥大日岳を目指す登山者専用のキャンプ場です。また室堂周辺の初心者用トレッキングキャンプとして家族連れでの利用者も多いキャンプ場です。夏場の登山シーズンともなると、敷地一杯に色鮮やかなテントが立ち並びます。ここから立山連峰や大日連峰なども見渡せる絶景が広がっています。
8/13-15 剱岳②
— aya (@imaima178) August 15, 2017
キャンプ場から沢を渡り新室堂乗越を経て剱御前小舎まで一気に登ります。
気持ちの良い木道に癒されながら歩きましたがテン泊装備の重さが徐々に身体にずっしり圧し掛かって疲労が… そんな時に「グェーグェー!」と鳴き声が。可愛い雷鳥さんに元気をもらいました!! pic.twitter.com/YnVbwbMsCX
雷鳥坂の周辺には、黄白色のオンダテなどの高原植物が咲いています。さらに進むとハクサンイチゲ、コバイケイソウ、オンタデ、シナノキンバイなどが咲き誇ります。道は全体的になだらかですが、浮石が多いため歩行には要注意です。景観がいいので周りの景色に気を取られそうですが、足元をしっかり見て別山乗越へアクセスします。
剱御前小舎に到着。 pic.twitter.com/71eYWCjXM9
— のぼりん (@nokkosi) September 4, 2016
雷鳥沢のなだらかな岩と小石の道を進み、ハイマツ帯の中をジグザグを繰り返しながら登っていくと別山乗越に立つ山小屋の剱御前小舎に到着します。室堂を出てここまで約2時間半の行程時間です。剱御前小舎は、ゴールデンウィークから10月下旬まで営業しており、天候のいい日には剱岳を間近に眺めることの出来る居心地のいい山小屋です。
剱岳登山へ向けて別山乗越から剣山荘へ
別山乗越から緩やかな傾斜の岩場を進んでいきます。進むにつれ左手に見える剱岳が次第に大きく見えてきます。周辺は、アオノツガザクラやチングルマなどの花が咲き誇り広大な平地と取り囲む山々に爽快感を感じます。その剱岳には、剱の刃のような鋭い尾根が垂直に下りているのが見え、これから始まるハイライトに期待が膨らみます。
しばらく進むと剱沢キャンプ場が見えてきます。トイレと飲料可能な水場があり、夜になると満天の星空が夜空を埋め尽くします。ここが剱岳に最も近い登山基地となります。また近くには野営場管理所があり、診療所と富山県警察上市警察署剱沢警備派出所の山岳警備隊が常駐して登山者の遭難などにすぐに対応できるようにしています。
ハイマツ帯を抜け湿原に出来た池沼手前から先に、剱岳登山に最も近い山小屋の剣山荘が見え、登山道の先には険しい姿の一服剱が見えます。剣山荘は、160名収容可能な山小屋で和室と二段ベッドがあります。また水洗トイレ、洗面所、シャワー、台所の水廻りが充実した山小屋です。室堂からここまで徒歩で約4時間の行程時間です。
剣山荘の外のオープンデッキには、木製のテーブルと椅子が備えてあり登山初心者や一般登山者の憩いの山小屋です。ここは他の登山者との天候情報や注意事項など剱岳の情報交換だけでなく、お互いの登山歴についての話など和気藹々の雰囲気が生まる山小屋です。ゴールデンウィーク中と6月下旬から10月下旬までが営業となっています。
室堂を出て剱沢キャンプ場までアクセスするトレッキングコースを紹介する初心者向けの紹介動画です。周辺の高山植物や花畑、遠くに見渡せる絶景の山々の景色などを紹介しています。剱沢キャンプ場や山小屋となる剣山荘は、家族連れや友達などとのキャンプや宿泊を満喫できるところで、自然に囲まれた癒しの空間が広がっています。
剱岳登山第一関門の一服剱から前剱へ
剣山荘から一服剱へ向けてアクセスを開始します。基本的には傾斜角30度以上のガレ場を蛇行しながら登っていきます。1番鎖場と2番鎖場を登って行きますが、傾斜は緩く難易度はさほど高くはありません。初心者でも三点確保を守っていけば充分登頂可能な箇所です。この一服剱を登り詰めると目の前に大きな前剱が立ちはだかります。
一服剱の山頂へ登ると、遠くに鹿島槍ヶ岳、五竜岳などが聳える美しい後立山連峰を望むことができます。一服剱という名称は、剱岳登山の最初の休憩地点で、まずはここで一服という非常にコミカルな意味でつけられたとされています。1940年代の終わりごろに富山高校山岳部員により使われ始めたとされています。
旅行日和り : 2017年の無雪期登山(9)初心者の剱岳挑戦[3]恐怖の岩稜帯〈2〉一服剱から前剱へ https://t.co/uLuTt32N4N pic.twitter.com/ntkytSNG8G
— 旅行日和り (@hspoqaf) November 20, 2017
前剱に登るには、一旦、武蔵のコルと呼ばれる谷底まで下ります。そこから前剱の頂上までは約260mの高さです。ここの下り登りの傾斜は見た目ほどは厳しくはありませんが、浮石、落石が多く、特に下りの際につまずきスリップ、転倒などの事故が多発しているので要注意です。傾斜の緩さに慢心してガレ場に足を取られないよう注意です。
武蔵のコルから登り3番目の鎖場辺りに来ると今にも崩れ落ちそうな大きな岩の前剱大岩が現れます。この前剱大岩の脇を鎖場を使って通過します。はじめに真上に上りその後に左上、右上と鎖場を進み、その後に4番目の鎖場へと続きます。大小様々な岩場が続くところを鎖場を伝いながら登っていくと前剱の頂上へ出ます。
絶景のパノラマ景観が広がる前剱
前剱の頂上からは、立山、富士ノ折立、遠くに薬師岳、黒部五郎岳など、後立山連峰方面に唐松岳、五竜岳、鹿島槍ヶ岳、後ろには高妻山、黒姫山など絶景のパノラマが広がります。剣山荘を出発し前剱の頂上まで約1時間半の行程時間です。初心者にとっては難易度の高いルートですが、登った時の爽快感は何ともいえない心地良さです。
ここから剱岳別山尾根コースの中核地帯にアクセスします。眼下に20mの岩峰が見え、まずは4mの鉄のハシゴを渡ります。ハシゴの左右は崖になっていて、踏み外したら谷底へ真っ逆さまですのでここは慎重に進みます。風が強い日や雨が降る日は、ぐらついたり足が滑ったりするので危ないなと思ったら、特に初心者は中止する勇気も必要です。
5番目の鎖場を伝って大岩を右側へ廻り込んでいきます。右手は切れ落ちた断崖絶壁になっています。この辺りから剱岳の本格的な登山コースになってきますので、初心者で三点確保ができない方や体力的に自信のない方などは引き返したほうが無難です。5番鎖場で岩峰を通過したら、今度は6番鎖場で平蔵のコルへ下り緩やかな稜線を進みます。
7番目の鎖場で登る平蔵の頭
しばらくアクセスするとご覧のような下り斜面が絶壁の姿をした平蔵の頭が出てきます。平蔵の頭は上りよりも下りの方が高低差があり恐怖心が出ます。7番鎖場で急な岩場を10m一気に上り、その後20mの鎖を慎重に下り小さな峰を再び上って行き、8番鎖場の短い岩場を進みます。そして次はいよいよ9番鎖場、人気のカニのタテバイです。
剱岳最大の難関カニのタテバイ
剱岳別山尾根コース最大の難所といわれるカニのタテバイは、ほとんど垂直に近い断崖絶壁を9番鎖場を使って50m上ります。一気に50m上るわけではなく、前半の垂直に近い部分と後半の鎖が整備されていない急斜面の岩場に分かれます。前半の上りは鎖と足場がしっかりとしているので三点確保と体力さえあれば問題なく上れます。
憧れの剱岳に行ってきました。
— 山走健生 (@sakayasu1956) July 31, 2016
カニのタテバイ、ヨコバイはスリル満点です。 pic.twitter.com/6V4TaqqYzI
カニのタテバイは、切り立つ断崖絶壁をカニが這うように壁伝いに進むことからこの名が付けられています。難易度が高く、上り専用なので一度取り付いたら引き戻すことはできません。特に初心者は体調を整え準備万端でアクセスするようにしましょう。ここを過ぎて、ジグザグとしたガレ場を上っていくと、ようやく剱岳山頂へ到着です。
剱岳山頂から視界360度の絶景を楽しむ
剱岳山頂は岩場だらけのところですが、最初に目につくのが剱嶽社の祠です。もともと昭和32年に建立され50年以上もの間、剱岳山頂に鎮座し放置されていたものを、立山の麓,芦峅寺の立山雄山神社の境内に移して新しく改修し、2008年8月にヘリコプターで運び新たに設置されたものです。剱岳登山者の記念撮影場にもなっています。
剱岳頂上からは360度のパノラマの世界が広がっています。写真の景色は、大きな窪みが特徴的な剱沢カールです。東方向を見ると、後立山連峰の山々、北方向には、白馬岳、鑓ヶ岳、西方面には富山湾が広がります。このあと再び難易度の高いカニのヨコバイが待ってますが、まずは時間が経つのを忘れて絶景の景観を堪能しましょう。
下り専用のカニのヨコバイ
これがカニのヨコバイ。高所恐怖症の人には無理なとこ。 pic.twitter.com/CrcjrFOGpX
— HIRO I (@hirotomojj) September 17, 2016
もうひとつの高い難易度のあるところが、下り専用となっているカニのヨコバイです。下り部分は、10番鎖場のカニのヨコバイから13番鎖場の前剱の門までが整備されています。カニのヨコバイは最初の一歩が、足場が見えないため非常に難しいとされています。また右足から出さないと次のアクションができなくなります。
カニのヨコバイは、いきなり横に進むのではなく、一旦垂直に下りてそれから右横に廻り込んでいきます。横文字でLの文字を描くように進みます。横に移動の最初の一歩の足場が不明瞭で、鎖に全体重をかけて足場を探します。最初の足場さえ見つかれば、後は問題なく進めます。ただしかなりの高度なので足を踏み外さないよう要注意です。
最大の難所カニのタテバイとカニのヨコバイを紹介する動画です。撮影者のカメラ位置がヘルメットの頭上にあるので時々平衡感覚が分からなくなりますが、平地に見えているところは、傾斜70度以上の岩壁だったりします。どういったポイントで上っていってるのか分かりにくいですが、その厳しい登山の様子はよく分かります。
早月尾根登山ルートから剱岳へ
【絶景登山】
— このままで (@nikolaevbonifa1) December 3, 2016
北アルプス剣岳。馬場島登山口より残雪の早月尾根をのぞむ。
見上げただけでもその峻険さに圧倒される。
#山
#雪山
#風景写真
#写真好きな人と繋がりたい pic.twitter.com/ov45xrNx39
登山口である馬場山から山頂まで高低差2200mという日本一の高低差を誇るハードな登山ルートです。そのため初心者はおろか、一般登山者にとっても別山尾根ルートほどではないですが、それでもかなり難易度の高いルートで気は抜けません。日帰りでもできないことはないですが、山小屋に1泊2日で時間に余裕を持った行程がおすすめです。
剱岳・早月尾根登山道にある早月小屋。自分の力では剱岳の頂上まで行くことは無理っぽいのでここまでで引き返す。
— 須川ショウ (@s_sugawa) August 19, 2017
・・・とはいえこの時点で標高は2200mで、スタート地点からの標高差は1440mという、並の山登りよりもハードなものである。 pic.twitter.com/73po3UpbgZ
早月尾根登山ルートの中継点となる山小屋、早月小屋はスタート地点の馬場山から標高1440m上ったところにある山小屋です。ここまで松尾平、三角点を通過して約5.4km、さらにここの山小屋から獅子頭と呼ばれるところを通過して頂上まで約2.9km、計8.3km区間をほぼ登り詰めていく、初心者には時間的体力的にハードなルートです。
登山愛好家なら一度はトライしたい剱岳
いくつもの難易度の高い尾根や岩場を持つ剱岳は、国内でももっとも危険な登山ルートといわれる反面、その難易度から多くの登山愛好家を魅了してやみません。近年、剱岳登山ルートの整備はしっかりと安全面の強化も図られています。あとは登山者が安全管理に努め、無理のない登山を心掛けるようにして楽しみたいものです。
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