イタリアのポヴェーリア島は呪われた島と呼ばれている
世界には心霊スポットと言われているところが多くあります。山深い廃墟などをイメージすることが多いかもしれませんが、実は観光で有名なイタリアの、しかもヴェネツィアという観光の中心地の近くに、ポヴェーリア島という心霊スポットとして知られる場所があります。そんなポヴェーリア島について紹介します。
かつてはペスト患者の収容所で幽霊が出る噂がある
ポヴェーリア島はイタリアのヴェネツィアにあるのですが、さまざまな都市伝説に彩られた心霊スポットでもあります。その理由はこの島がペスト患者の収容所となったり、精神患者の隔離施設があったりしたという歴史を持つためです。
これらの歴史から、幽霊が出る、呪われた土地というような噂が多く流れ、その結果としてポヴェーリア島は心霊スポットと言われるようになったのです。幽霊が出るという噂が本当なのか、気になるところです。
現在は立ち入り禁止の無人島
そのポヴェーリア島は、イタリア・ヴェネツィアの南、リード島の内側にあります。そもそもヴェネツィアはヴェネタ潟というアドリア海北部の潟(ラグーナ)にある島の上にある街なのですが、この潟にはほかにも多くの島々があります。ポヴェーリア島はその島の一つなのです。
ポヴェーリア島の面積は約0.07平方キロメートルで、水路により2つの島になっています。片方にはたてものなどが、そしてもう片方には木立や野原が広がっており、2つの島は橋で結ばれています。
その昔は人が住んでいた時期もあったのですが、現在は無人島となっています。また多くの本でも取り上げられているほか、心霊スポットとしてメディアにも出てきていますが、現在は立ち入り禁止の場所となっています。
ポヴェーリア島の歴史
さて、このポヴェーリア島ですが、今述べたように小さな無人島でありながら、幽霊が出るなど心霊スポットとして取り上げられることが多いです。しかし「現在は」無人島と述べたように、ここまでの歴史では人が住んでいたこともありました。そこでポヴェーリア島の歴史について紹介していきます。
最初はパドゥア人とエステ人が住み着いた
ポヴェーリア島があるヴェネタ潟は、今から6000年から7000年ほど前に氷河が溶けてアドリア海に広がった海に、南にあるポー川からの土砂が堆積してできた、ラグーンと言われる地形です。ポヴェーリア島はこの型にたくさんある島のうちの一つですが、この島に人が住みついたのは5世紀のことと言われます。
「年代記」の記述によると、古代後期以降、このあたりには周辺の蛮族の侵入を受けるようになります。そのため421年、周辺に住んでいたパドヴァ人やエステ人がこのポヴェーリア島に逃れてきました。
この島にもそういった人々が攻め寄せてきたりといったもめごとは起こったようですが、少しずつ落ち着くようになり、ポヴェーリア島には人々が生活するようになりました。
この地に定着した人々は少しずつ人口も増えて行きます。9世紀ごろになると、ポヴェーリア島はヴェネツィア共和国に属し、人口が増加し、独自にポデスタという首長を立てるまでになりました。この時期には呪われた歴史や心霊スポットなどと言われる要素はなく、ごく普通のイタリアの平和な島だったのです。
住民はジュデッカに移住した
ところが、14世紀ごろになると、ヴェネツィア共和国とジェノヴァ共和国との間に火種が生まれます。この二国はいずれも当時海洋都市国家として栄えており、活発に商業活動をしていたのですが、レパント地域の貿易の主導権をめぐって争いが起こるようになるのです。
ヴェネツィア共和国は1204年の十字軍でアドリア海の覇者となっていましたが、さらに勢力を伸ばそうとする過程のなかでジェノヴァ共和国との間にあつれきが生まれます。そしてこの二国の間に起こったのがキオッジャ戦争でした。
1379年に起こったこの戦争では、ヴェネタ潟の南端に位置するキオッジャの街の漁港が占領されたことで、ヴェネツィアは重大な危機に陥ります。ポヴェーリア島にもジェノヴァ共和国の艦隊が攻め込んできて、「命が惜しければ島を捨て」るように言われます。
ヴェネツィア共和国はこれを受け、ポヴェーリア島に要塞を築き、住民たちはポヴェーリア島からヴェネツィア本島に寄り添うような位置にあるジュデッカに移住させられることになりました。
抗争終結後は無人島になった
キオッジャ戦争はヴェネツィアが講和を求めたものの拒否されたことから、最後まで抵抗することを決め、艦隊をここに集めることでジェノヴァ軍は兵糧攻めに遭い、最終的にはヴェネツィアの勝利で終わります。しかしこの島に移住させられた住民は戻ることはありませんでした。
戦争の後、無人島となったポヴェーリア島は、1527年に時のヴェネツィアのドージェ(元首)によりいったんは修道院に提供される予定でした。しかし断られ、そのままに無人島として歴史を歩むことになります。
ポヴェーリア島はペスト患者収容所だった
ここまでのポヴェーリア島は、イタリアの普通の無人島であり、戦争の時の要塞はあるものの、特に呪われた歴史や心霊スポットなどと言われる要素はありませんでした。ところがその後、ポヴェーリア島が心霊スポットなどとよばれる事件が起こります。それは当時のイタリアを含めたヨーロッパで恐れられたペストの存在でした。
14世紀にペスト患者隔離収容施設となった
ポヴェーリア島はヴェネタ潟の端のあたりに位置しており、無人島ではあるものの、貿易港ヴェネツィアの出入りを監視するのにはちょうどよい場所でした。そこで1645年からは管理をするための拠点に位置づけられ、さらに1776年にはヴェネツィア共和国の公衆衛生局の管轄となります。
ポヴェーリア島はヴェネツィアに出入りする人々や商品のチェックポイントとなり、すべての人々は衛生的に問題がないという状態になるまで、この地にとどまることが義務付けられるようになりました。
ところが1793年、ポヴェーリア島を通過しようとした2艘の船に、数名のペスト患者がいることがわかります。
ペストというのは「黒死病」とも言われ、ヨーロッパでは何度か大流行しています。イングランドやイタリアでは8割の人間が死亡し、全滅した街や村があったほどで、非常に恐れられた病でした。その患者がいたことから、ポヴェーリア島はその人物を一時的に隔離する場所として使われるようになりました。
そしてその後、ナポレオン統治下となった1805年には、軍の病院が作られ、恒久的な隔離収容施設として使われるようになり、そのまま1814年まで使われるようになりました。この時には島にあった教会が取り壊されて、鐘楼が灯台になります。
16万人以上の人骨が埋まっているとの都市伝説がある
今述べたように、当時ペストというのはまさに「不治の病」でした。ペスト菌によって感染する伝染病であるペストは、当時の医療技術では十分に命を救うことができなかったため、イタリアなどでも多くの人々が亡くなりました。
治療法もなく、その上感染する病であるペストにかかった場合の唯一の治療法が「隔離」でした。当然隔離されたからと言ってそれを治すことができるわけではありません。一度隔離されたら一生そこから出ることはできなかったのです。
ポヴェーリア島がペストの隔離施設として使われたのは1793年から1814年まで間だったのですが、この期間の間にこの島で亡くなった人は16万人にも及ぶと言われています。ただ、この死んだ人の数などは確定的なものではなく、いくつかの情報が錯そうしている可能性もあります。
というのは、ポヴェーリア島がペストの隔離施設になったという噂の中には、ペストがヨーロッパで大流行した14世紀ごろからここが隔離施設であったというものもあります。これはポヴェーリア島がペストの隔離施設であったことと、14世紀ごろからヨーロッパでペストが大流行したことが結びついたためと考えられます。
いずれにしても、ポヴェーリア島はペストの隔離施設として使われたという歴史を持つことから、呪われた土地のように受け取られ、多くの人が死んでいる、幽霊が出る島、心霊スポットとして噂が広がるようになったと推測されます。
土壌が腐敗したとの都市伝説がある
現在、ペストという病はペスト菌の感染によって起こる病であることが知られており、抗生物質により治療をすることができることがわかっています。しかしポヴェーリア島に隔離施設が作られていた時代には、そのようなことはわかっていませんでした。
そのため、ペストの人々が苦しみながら亡くなった、その負のエネルギーが土壌を腐敗させた、島の土壌は亡くなった人の骨や遺灰で埋まっているなどとされ、その結果として土壌が腐敗しているなどという噂まで流れるようになりました。
しかし20世紀に入るとポヴェーリア島には農地が作られた時もあるので、土壌が腐敗しているということはということはありません。ただ結局は農地としての利用も進まなかったので、呪われた島という言葉を覆すには至っていません。
ポヴェーリア島は精神患者の隔離場所だった
さて、1814年に作られた病院が閉じられた後のポヴェーリア島はどうなったのでしょうか。20世紀に入るとポヴェーリア島に残されていた建物などが修繕され、島は新たな歴史を進むことになります。その新たな歴史というのが精神病院患者の隔離施設としての歴史でした。
20世紀には精神病院患者の隔離場所になった
1922年、ポヴェーリア島には新たに病院が開設されます。その病院は精神病の患者のための病院となり、多くの精神病の患者がこの病院に入院するようになりました。
こちらは伝染病ではなかったわけですが、精神病の患者がいる島ということで、後に述べるさまざまな噂の元凶となります。詳しくは後に紹介しますが、病院でなくなったことでさえ、「幽霊に発狂した院長が身を投げたから」と言われるほどなのです。
このように、精神病の患者たちの病院ができた後も、ポヴェーリア島が「呪われた」「幽霊が出る」「心霊スポット」の島であるという噂は消えることがなく、「幽霊島」であるかのように広まっていきます。
老人ホームとして使われた時もある
精神病の患者の病院は、その後老人ホームや長期でケアが必要となる人々のための施設として使われるようになりますが、1968年にはその施設も閉鎖されることになりました。以来現在に至るまで、ポヴェーリア島は完全に無人島となり、2020年現在ではイタリアの国有地として、立ち入りも禁止される状態となっています。
しかしここまでの歴史で作られたイメージは大きく、現在でもポヴェーリア島は「幽霊島」「世界一の心霊スポット」などと呼ばれ、呪われた歴史を持つ島という印象が消えてはいないのです。
ポヴェーリア島の都市伝説
それでは次に、ポヴェーリア島にまつわるさまざまな噂や都市伝説について紹介していきます。ここまで述べてきたように、ポヴェーリア島にまつわる噂の多くは、島にペストの隔離施設や精神病の患者を収容する病院が作られたことに関係するのですが、どのような噂があるのでしょうか。
精神病患者に対するロボトミー手術・拷問が行われていた
かつて、精神病の患者の中には、その治療法としてロボトミー手術というものを施されることがありました。これは大脳の前頭葉の部分を切除するというもので、性格が穏やかになるなどの効果があるとされました。
一方で前頭葉というのは意志や学習、言語など、ヒトをヒトたらしめる場でもあることから、それを切除されることは大きな副作用をもたらす可能性も高く、人権問題にも発展するなど、大問題となり、行われなくなりました。
ポヴェーリア島では、患者が病院の時計塔の中で無理やりにロボトミー手術を受けさせられており、患者の叫び声が外まで聞こえてくるなどという噂はここから出てきたと推測されます。
もちろんこの手術で命を落とす患者もいたわけで、それらの人々は幽霊となり、ポヴェーリア島にいるのだと噂されています。ですからポヴェーリア島に近づくと、そんな幽霊の声が聞こえてくる、なにか人影が見えるなどといも言われています。
心霊スポットとして有名になっている
不治の病であるペストや、精神病などで苦しむ患者が、叫び声をあげつつ亡くなり、その幽霊がこの島にはいるということで、イタリアのポヴェーリア島は心霊スポットとしても知られるようになりました。
実際に無人島であるはずの島から声が聞こえてくるのは幽霊がいるからだということで、ますますこのポヴェーリア島は心霊スポット、幽霊島としての噂が流れるようになったのです。
鐘楼から身を投げて自殺する人がいた
さらに先ほど少し触れたように、ナポレオンの時代にこのポヴェーリア島にあった教会が取り壊され、鐘楼が灯台として利用されるようになりました。先ほど少し触れたように、精神病の患者たちにロボトミーの手術を行っていた医者が、だんだん精神を病んで、この鐘楼から飛び降りたというものも噂となっています。
この話にはその医者が島にいる多くの幽霊に取りつかれたという噂もついており、医者が命を絶ったことで病院も閉鎖されたと言われるのです。
このように、幽霊によって人が亡くなっているということは、ポヴェーリア島が呪われた場所であるという噂に拍車をかけ、呪われた島、世界的に知られた心霊スポットという噂にもつながっているのです。
ポヴェーリア島の現在
このように、呪われた島、心霊スポットと言われるイタリアのポヴェーリア島ですが、2020年現在はイタリアの国有地の無人島となって、立ち入り禁止となっています。しかし一方で、いつまでもこのまま呪われた島のままにしておくのかというと、ちょっとした動きが出てきているようです。
オークションにかけられたが売り手はついていない
実は現在、イタリアのポヴェーリア島は競売にかけられています。競売といってもこの島がイタリアでなくなるわけではなく、「99年のリース契約」をするという競売です。
この競売がなぜ行われるに至ったのかというと、その背景にはイタリアの財政難があるようです。イタリアは財政難を打開するために、国有地を売却、貸与するために競売にかけるという政策を行うことにし、2014年、ポヴェーリア島はリース契約を結ぶということで競売にかけられました。
この時の競売にはポヴェーリア島のほか修道院跡や城跡など、合計5点がその対象としてピックアップされたそうです。
イタリア政府はポヴェーリア島に高級ホテルなどを建設し、観光スポットとして利用することを望んでいるようなのですが、競売の結果はあまりはかばかしくないようで、現在も売り手はついていないようです。
呪われた島という噂があるポヴェーリア島が、高級ホテルとして使われるようになれば、そういった噂や心霊スポットという噂もなくなるかもしれませんが、どうなるのかは現在のところ不明です。
一部のヴェネツィア市民は反対運動を起こしている
ポヴェーリア島の競売にはもう一つ問題があります。それは一部のヴェネツィア市民の間にはこの競売に反対する動きがあると言われているためです。
最初の歴史で述べたように、ポヴェーリア島に住んでいた人々はキオッジャ戦争の際にジュデッカに移住させられました。そのジュデッカの人々の中には「みんなのポヴェーリア」というSNSサイトを立ち上げ、お金を集めて競売に参加しようとしているそうです。
ポヴェーリア島を見るためのアクセス方法
最後にポヴェーリア島を見ることはできるのかということについて紹介します。実はポヴェーリア島は以外とアクセスがよい島の一つです。ヴェネツィアの中心地で有るサンマルコ広場からなんとボートで10分ほどのところにあるのです。
これだけ近いわけですから、当然サンマルコ広場からポヴェーリア島を見ることは可能であり、観光などでイタリアに行った時にでも見るだけならしてもいいかもしれません。サンマルコ広場から方角を確認してぜひ見てみてください。
しかし、心霊スポットが好きという方にとっては、せっかくここまで来たらその呪われた島に足を踏み入れてみたいという方もいるかもしれません。実際これだけ近いわけですから、テレビ番組のレポーターなどがポヴェーリア島に踏み込もうとしたことがありました。
しかしこっそり立ち入ろうとした旅行者が、夜になると精神に異常をきたし、助けを求めて発狂し、近くをたまたま通りかかったボートに救出されたということがあったそうです。
実際、ポヴェーリア島はイタリアの国有地ですから、こっそり足を踏み入れると逮捕される可能性があります。呪われた島を体験したいという方もいるかもしれませんが、それはやめましょう。
ポヴェーリア島は悲しい歴史と心霊の噂がある島
イタリアのポヴェーリア島は、歴史の中でペストの隔離施設となったり、精神病の患者を収容したりしていたことで、呪われた幽霊島のようなイメージでさまざまな噂を流されてきました。しかしそれは、現在に至るまでの歴史があったからでした。小さな無人島ではありますが、そこにはこれまでの多くの歴史が色濃く反映しているのです。
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